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2013 年に Helicobacter pylori(H. pylori)感染胃炎に対する除菌療法の保険適応が認められて以来,すでに7 年以上の時が経過した.消化性潰瘍再発予防では劇的な効果を発揮し,多大な恩恵をもたらした除菌療法が,わが国が直面する最大の厄災の一つである胃癌による死亡率減少に大きく貢献するものとの期待が込められていたわけであるが,本療法の胃癌発生抑制効果に関するデータは当初喧伝されていたほど劇的なものではなく,限定的であることが明確に認識されるに至っている.すなわち,診療の現場でも,胃がん検診においても,除菌後症例は現感染例と同様,胃癌ハイリスクとして慎重なfollow‒up の対象として扱われている.H. pylori 感染持続の結果である胃粘膜萎縮が進行することでpoint of no return を越えた場合,最終的にはH. pylori 感染の有無にかかわらず,胃癌が発生する状態に至るというH. pylori 感染胃炎の自然史を理解していれば,当然予想されたことであるが,胃癌診療の前線では除菌後胃癌を加えた新たな闘いが展開している.このH. pylori 除菌がもたらす新たな戦線では,当初,生物学的悪性度が低く扱いやすい癌との闘いが中心になるものと予想されていたが,短期間で進行癌に進展する難敵も少なからず出没することが明らかとなり,第一線の内視鏡医にとっては,除菌療法により炎症軽度となり穏やかな胃内風景が展開するにもかかわらず,胃癌診断に関するこれまでの経験値では対応し難い,あたかもゲリラのように身を潜めた敵とも対峙することを強いられる,気を抜くことが許されない状況となっている.
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