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はじめに
変形治癒して短縮した下腿の骨を骨切りし,治癒過程において牽引を行うことで脚長差を解消した1904年のCodivillaの報告は骨延長の概念の嚆矢とされる 1)が,Codivillaの方法は骨延長を延長量によってコントロールするという概念ではなく,牽引重量によってコントロールするというものであった。画期的な概念ではあったが当時は広く用いられるには至らず,骨延長法が再び注目されるようになったのは,その後Ilizarovが長管骨の骨延長に関して確立した体系を1988年に報告した後のことであった。Ilizarov法はその後瞬く間に広く用いられるようになり,1992年にはMcCarthyらによって初の顔面への応用となる下顎骨の延長例が発表されるに至った 2)。一方,頭蓋顔面外科の歴史に目を向ければ,頭蓋顔面外科が独立した診療領域として注目されるようになったのはcraniofacial surgeryの父と呼ばれるPaul Tessierが1967年に国際学会で症例報告を行って以降のことであり 3),Le Fort Ⅲ型の骨切り後に骨移植を行って後戻りを防いだことは彼の大きな功績の1つとされる。しかしながら骨移植自体には移植骨感染や萎縮のリスクが存在することに加え,軟部組織の制限によって骨移動量が規定されたり,monobloc advancementのような頭蓋内の死腔と鼻腔に交通が生じるような術式においては重篤な頭蓋内感染が生じる可能性が生じたりといった限界も存在していた。骨延長術はこれらの骨移植を伴う一期的骨移動術の限界を乗り越える手段として注目され,MacCarthyの報告以降,種々の動物実験やヒトでの研究により基礎的な知見が蓄積されるようになるとともに 4)5),頭蓋顔面の各部位への適応例が続々と報告されるようになり,中・長期経過も徐々に明らかとなってきた 6)7)。現在では頭蓋顔面の骨切り・骨移動術を行うにあたり,骨延長術は第一選択として用いられることも多くなっているが,いまだに実際の骨延長プロトコルには施設によって差があることも事実である。
本稿では,主にヒトに対してこれまでに行われた研究結果を参照しつつ,個々の症例に骨延長術を行うにあたってどのような留意事項が必要であるかを解説する。
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