Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
リウマチ患者としてのルノワール―絵を取るかリハビリテーションを取るか
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.810
発行日 2008年8月10日
Published Date 2008/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101316
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ルノワールの次男で映画監督としても有名なジャン・ルノワールが1962年に発表した『わが父ルノワール』(粟津則雄訳,みすず書房)には,リウマチに悩まされた晩年のルノワール(1841~1919)の姿が描かれている.ルノワールのリウマチが発症したのは1897年,56歳の頃であるが,その後病状は進行し,車いすでの生活を余儀なくされていた.しかし,それから5年後の1912年,71歳になったルノワールは一人の医師に出会う.この医師は,絵のことなど何一つわからなかったが,実に生き生きとした人物で聡明な眼をしていた.ルノワールはこの医師が気に入り,医師のほうも数週間で脚を使えるようにしようと約束した.
果たせるかな,この医師の強壮療法は奏効し,ルノワールは1か月もすると随分元気になったような気がした.医師がルノワールを車いすから立ち上がらせると,ルノワールはこの2年来初めて立つことができたのである.ルノワールは大喜びで周囲を見回し,一歩,また一歩と歩みを進めて,イーゼルの周りを一回りして車いすのところに戻った.そしてルノワールは立ったままで医師に言った.「やはり諦めることにしますよ.これじゃ私の意志の力はみな取られてしまう.描くための意志力など残らなくなってしまいそうでね.(中略)描くのと歩くのとどちらを選ぶかとなると,やはり描く方が好きなんですよ」.
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