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乳癌治療の歴史はde-escalationそのものであった。1882年にハルステッドが最初の根治的乳房切除術を行って以来,定型的な根治手術は大小胸筋切除に加えて腋窩リンパ節も郭清するもので,肉体的,精神的負担は大きかった。乳癌は解剖学的に順次,進展するとのハルステッド理論に基づき,さらに拡大切除の方向に進んだが,成績は向上せず,より侵襲性の少ない胸筋温存手術が導入された。その後,1970年代に入り,米国における大規模なランダム化比較試験(RCT)1)の成果をもとに,乳癌は全身病ゆえ局所治療は治癒に影響を与えないとする全身病モデルが提唱され2),それまで100年あまり信奉されてきた病態論のパラダイムシフトが起こった。この考え方は乳房温存療法を正当化する理論的根拠となり,RCTで安全性が確認された3)。さらに,センチネルリンパ節生検(SNB)で少数個の転移があっても腋窩郭清術を省略できるようになり4),患者の生活の質(QOL)は飛躍的に向上した。その間に乳癌のバイオロジーの解明が進み,サブタイプ別に新規薬剤が投入,強化された。ホルモン受容体(HR)陽性の低リスク乳癌には化学療法が安全に回避されるようになった。放射線療法も局所療法として外科療法の縮小部分を補完する役目だけでなく,システマティックレビューの結果,遠隔転移(乳癌死)を抑える効果も確認され5),その重要性が再認識されるようになった。その背景には乳癌はheterogenousであり,ハルステッド理論と全身病モデルが混在したスペクトラム理論6)を支持するエビデンスの蓄積があった7)。その人に合った最適な治療precision medicineを提供するには,放射線療法もこれまでのように病期だけでなく,バイオロジーも考慮して,集学的治療の中で適応が検討されねばならない。
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