- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
線維柱帯切除術術後に生じた角膜上皮欠損部に,急速な白色混濁をきたした症例を経験したので報告する。患者は81歳女性。右眼の虹彩ルベオーシスと閉塞隅角に伴う高眼圧のため紹介となった。眼虚血症候群による血管新生緑内障と診断し,新生血管の抑制と眼圧降下目的に右眼の硝子体手術および汎網膜光凝固術,線維柱帯切除術を同日に施行した。術後に抗菌薬点眼,ステロイド(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム)および非ステロイド性抗炎症薬点眼,ベタメタゾン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏が処方された。術後18日目に角膜傍中心部に楕円形の角膜上皮欠損が生じ,術後25日目に同部位の角膜実質に白色混濁を生じた。そのため,33日目に角膜外来初診となった。ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムによるリン酸カルシウム塩沈着の可能性も考え,ステロイド点眼を中止した。また,充血や眼痛はなかったが,ステロイド投与により感染症がマスクされている可能性も考慮し,抗菌薬点眼加療を強化した。しかし,所見に変化はなく,角膜擦過物の塗抹培養検査も陰性であったため感染症の可能性は低いと考え,抗菌薬を減量して角膜上皮保護治療を行った。角膜知覚計では右眼10/60mm,左眼60/60mmと右眼に角膜知覚の低下を認め,Schirmerテストでは両眼とも5mm以下と涙液減少がみられた。本症例では遷延性角膜上皮欠損を生じたのちに,薬剤毒性,角膜知覚低下,涙液減少,術後点眼で使用したベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼によるリン酸カルシウム塩沈着などの複数の要因が関与して,急激な角膜混濁をきたしたと考えた。角膜上皮化は得られたが,角膜混濁は残存した。初診時より視力,視野ともに不良であり角膜移植術は選択されなかった。

Copyright © 2025, KANEHARA SHUPPAN Co.LTD. All rights reserved.