シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・7
iPS細胞による網膜再生の可能性
渡辺 すみ子
1
Sumiko WATANABE
1
1東京大学医科学研究所再生基礎医科学寄付研究部門
キーワード:
網膜
Keyword:
網膜
pp.841-845
発行日 2009年7月15日
Published Date 2009/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102025
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網膜再生の必要性
世界には5千万人以上の,わが国では1991年の統計では約3万人の方が視覚障害者であると報告され,その失明原因の上位に,有効な治療法の開発が必要な網膜の疾患が挙がっている.この事実のみならず,高齢化社会がますます進展することを考えても視覚の維持,あるいは再生が重要とされるゆえんは容易に理解される.
しかしながら,角膜についてはその再生が様々な方法により現実のものとして各所から報告されているのに対し,網膜再生はまだ道が遠いと言わざるをえない.その理由は角膜の機能,構造が比較的単純であるのに対し,網膜ははるかに複雑である.実際網膜は発生学的にも機能的にも中枢神経そのもので,複雑な神経ネットワークにより機能を発現する.また幹細胞という視点で考えても脳の神経幹細胞が極めてアクティブに研究され,細胞移植による神経再生の実現化が進んでいるのに対し,網膜幹細胞は研究人口も少なく,こと高等脊椎動物の網膜幹細胞についてはまだその実態は明らかでない.
筆者らも,網膜の幹細胞やその後の細胞分化の分子過程を明らかにし,網膜再生を実現させようと考えている研究グループのひとつであるが,網膜幹細胞の代替,あるいは代替をこえる細胞ソースとしてiPS細胞による網膜再生の実現を視野に入れる時代が到来したと考えている.
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