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脊髄小脳変性症(SCD)は,小脳を中心として脳幹,脊髄,大脳などがおかされるまれな神経変性疾患で,このうち3割程度を占める常染色体優性遺伝性SCD(AD-SCD)には現在40以上の遺伝子型が知られている。内眼所見との関連については,これまで7型(SCA7)のみで黄斑変性を伴うことが知られていた。しかし,近年,1型(SCA1)にも網膜電図(ERG)異常や黄斑ジストロフィなどの網膜異常所見がみられた報告や,SCA7, SCA1いずれにも角膜内皮細胞減少が合併した症例が報告されている。しかし,各遺伝子型の症例数は少なくAD-SCD全体で症例を積み重ねて検討する必要があると思われ,今回,当院で経験した黄斑ジストロフィと角膜内皮細胞減少を伴う遺伝子型不明AD-SCDの1例について報告する。
患者は69歳女性。50歳頃より歩きづらさとろれつの回りにくさが徐々に進行し,65歳時に他院神経内科を受診。小脳失調症状および画像上の小脳萎縮,家族歴からAD-SCDと臨床診断された。遺伝子検査は本人の同意なく未実施のため遺伝子型は不明であった。約2年前からの進行性の両眼視力低下を主訴に当院を初診した。眼科既往歴はなかったが,初診時の矯正視力は両眼0.3,両眼底は黄斑にごく軽度の脱色素とOCTでは黄斑部網膜外層の菲薄化がみられ,多局所網膜電図(多局所ERG)では黄斑部の振幅低下がみられた。角膜内皮細胞密度は右眼1,142/mm2,左眼1,070/mm2と低下していた。原因不明の両眼黄斑ジストロフィと角膜内皮細胞減少として経過観察しながら本症例の眼所見とAD-SCDとの関連性について既報に基づき検討したところ,本症例の遺伝子型はSCA1の可能性が最も高いと推測された。
SCD患者について眼科診察を行う際には黄斑ジストロフィと角膜内皮細胞減少の有無を確認すること,そして原因不明の黄斑部異常や角膜内皮細胞減少がみられる症例ではSCDの既往歴を確認することが大切であると思われた。
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