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脊髄小脳変性症は,運動失調を主徴とする変性疾患と家族性痙性対麻痺とを併せた疾患分類である。わが国においては,痙性対麻痺を含めて脊髄小脳変性症を厚生労働省の難治性疾患克服研究事業(特定疾患調査研究分野)の対象のひとつとしている。神経変性疾患に明確な定義を与えることは困難であるが,強いて言えば,正常に発生・発達して機能している神経組織・細胞が,物理的原因や化学的原因あるいは感染症などの明らかな外因によらず,遺伝性の原因あるいは未知の原因によって変性・脱落していく進行性の疾患と言えよう。医科学の進歩によって,疾患概念・分類は時代を追って変遷してきた。このことは,学問・科学の進歩そのものを反映しているが,初学者や非専門家にしてみると,理解しずらく,混乱のもとでもある。家族性痙性対麻痺が筋萎縮性側索硬化症などの運動ニューロン系障害を主徴とする疾患群でなく,運動失調を主徴とする疾患とともに分類されているのは,歴史的経緯によると思われる。脊髄小脳変性症の完全な分類は確立されているわけではなく,様々な分類が試みられてきた。代表的なものを挙げると,歴史的なものであるが,Greenfield(1954)1)の分類や分子遺伝学研究が導入される直前のもので,現在でも使われるHarding(1984)2)の分類などがある。分類の規準ないし概念といったものには立ち入らないが,いずれの分類も,臨床神経病理学的観点からの分類で,個々の疾患単位が必ずしも明確に同定されていないものが多い状況での分類で,自ずと限界も存在する。もちろん,分子遺伝学導入以前においても,Friedreich失調症や本邦で頻度の多い歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)やMachado-Joseph病(MJD)など疾患単位として確立されたものもある。しかしながら,数多い遺伝性の脊髄小脳変性症の各疾患について,明確な疾患単位を確立することができるようになったのには,分子遺伝学的研究が大きく寄与していることは論をまたない。
分子遺伝学的研究の成果が大きく開花するのは,1993年に脊髄小脳運動失調症1型(spinocerebellar ataxia type 1:SCA1)の原因遺伝子が同定されて以降で,数々の原因遺伝子が同定されてきている。わが国の研究あるいは研究者の,この分野での寄与は誇るべきものがある。分子遺伝学的研究が展開される以前に,SCA1がHLA座位に連鎖する可能性が本邦のYakuraら(1974)3)により示唆されたが,これはその後の脊髄小脳変性症の遺伝学の発展の先駆けであった。分子遺伝学の時代に入り,DRPLA,MJDその他複数の疾患遺伝子が本邦の研究や研究者によって同定されている。
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