連載 話したくなる 整形外科 人物・用語ものがたり
第4回
「外科医のなかの外科医,偉大なる巨人Colles骨折:橈骨遠位端骨折の歴史」
小橋 由紋子
1
1東京歯科大学市川総合病院放射線科
pp.1280-1281
発行日 2022年11月19日
Published Date 2022/11/19
DOI https://doi.org/10.18885/JJS.0000001205
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はるか昔の学生時代,手関節の骨折は名前が付いていて,「Colles,Smith,Barton…」なんて覚えたものである。橈骨遠位端骨折の別のよび方である。手をついて転んで発生する橈骨遠位端骨折,かつては手関節の(掌側もしくは背側への)脱臼であると考えられていた。これはヒポクラテスの手関節外傷に対する考察である。確かに,X線が発見されていない時代,橈骨遠位端骨折を診断しようにも,骨折部位は関節面に近接しているし,軟部組織の腫脹を伴ってしまうと,外傷部位の同定は困難かもしれない。今まで脱臼と思われていたものが実際は橈骨遠位端の骨折ではないかと考えたのはフランスの外科医Jean-Louis Petit(1673~1750年)といわれている。その後,フランスの外科医Claude Poteau(1725~1775年)が脱臼ではなく橈骨遠位端の骨折であると報告している。さらに,橈骨遠位端骨折の受傷機転やその状態を詳しく調べあげ,1814年に「橈骨遠位端から1.5インチ手前で骨折する(図1)」と報告したのはアイルランドの外科医Abraham Colles(1773~1843年)である。しかしながら,当時この報告ははじめまったく注目されなかった。理由としてPoteauの論文と同様に,彼が地方の医学雑誌で発表したためとされる。こんな時代でもメジャーなところに論文を投稿しないと誰からも相手にされないという世知辛さを感じてしまう。
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