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はじめに
関節軟骨は,自己修復能に乏しく,損傷に対し 適切な治療が行われないと,高率に変形性関節症 に至ることが知られている1)。その病態として, 軟骨損傷の進行に伴い,軟骨下骨へ障害が及び, 関節に変形が生じるとされるが,これらの進行に は加齢,肥満,外傷,感染,生活環境,遺伝的要 因などさまざまな要因が関与している。 特に,骨折や靱帯損傷,半月損傷など外傷を契 機とした変形性関節症は,しばしば若年者でも問 題となるため,初期治療が非常に重要である2)。 一方で,初期治療が適切に行われず,変形性関節 症へ至った例では,いまだ有効な治療法はないの が現状である。 近年,軟骨損傷に対し,さまざまな再生医療的 アプローチが試みられ,その一部は臨床応用され ている3)。一方で,重度の軟骨損傷や変形性関節 症では,軟骨のみならず軟骨下骨まで障害される ことから,軟骨下骨の治療も考慮する必要がある。 そのため,変形性関節症のような骨軟骨病変に対 する生物学的再建のためには,軟骨および軟骨下 骨の層別の再生が望ましい4)。これまでにさまざ まな2層構造を有するインプラントの開発が行わ れており,動物実験などでその有用性が証明され ているが,一方で,インプラントの製造工程の複 雑さや,多くの場合,人工素材や生物由来素材を 用いるため,長期安全性が懸念されている。 筆者らは,滑膜由来間葉系幹細胞よりスキャ フォールドフリー三次元人工組織(scaffold-free tissue-engineered construct;TEC)を開発し,良好 な軟骨再生を得ている5)。TECは細胞および細胞自 身が作り出す細胞外基質から構成されるため,外因 性の物質を含まず,高い安全性が期待できる。また 過去の研究にて,接着因子が多数含まれることから, 接着剤などを使用せず,容易に移植母床となる軟骨 基質などへ接着することが確認されている。さらに 骨補填材料として,わが国ではさまざまな人工骨が 開発され,すでに臨床にて広く使用されており,軟 骨下骨再生への応用が期待される。 以上より,TECおよび人工骨からなる2層性イ ンプラントは,新たな骨軟骨再生のツールとなり うることが期待される。本稿で筆者らは,TEC・ 人工骨複合体を開発し,ウサギを用いたモデルに て骨軟骨再生への有用性を組織学的,生体力学的 に検討した。
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