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は じ め に
救急医療におけるトリアージは,患者の状態を迅速に評価し,医療リソースを最適に配分するための重要なプロセスである.患者の重症度や緊急性を判断し,適切な治療を優先的に行うことで,救命率や治療成績を向上させることができる.本プロセスは,特に大規模災害や医療資源が限られる状況においてその重要性が際立つ.しかし,従来のトリアージ方法は医療従事者の経験や知識に大きく依存しており,その精度にはばらつきがあることが指摘されてきた2).また,過去の研究によると,救急隊員によるトリアージの全体的な精度は約55%程度にとどまり,改善の余地が大きいことが明らかになっている3).
近年のAIの進展は,こうした課題を克服する可能性を示している.特に大規模言語モデル(large language models:LLM)は,膨大なテキストデータから自然言語を理解し生成する能力を備えており,医療分野への応用が期待されている4).しかし,LLMが抱える「幻覚(hallucination)」の問題や,専門知識を要する場面での信頼性の低さが実用化の障壁となっている5).これに対し,「検索拡張生成(retrieval-augmented generation:RAG)」技術は,外部の知識ベースから情報を取得し,それをもとに正確な応答を生成するしくみを提供する.本技術は,従来のLLMの限界を補完し,専門性が求められる分野での応用に大きな可能性をもたらしている6).
本研究では,RAG技術を統合したLLMを救急トリアージに応用し,その精度を検証した.特に救急現場での患者情報をもとにしたトリアージ判断において,RAG統合モデルが専門家の判断と比較してどの程度の正確性をもつかを評価することを目的とした.本稿では,本研究の結果に基づき,RAG技術の救急医療への適用可能性と,その将来展望について考察を行う.

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