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は じ め に
希少疾患に対する診断・治療は,患者数が少ないことから,適切な診療が提供されにくい状況が続いている.特に専門医の不足や地域による医療格差は深刻な課題である.また,多くの希少疾患では,診断に必要な知見や経験をもつ医師が限られているため,確定診断までに時間を要し,その間に複数の医療機関を受診するケースも少なくない.このような診断の遅れは,患者の生活の質(QOL)の低下だけでなく,適切な治療機会の損失にもつながっている.希少疾患研究におけるAI活用の系統的レビューでは,332の関連論文のうち,79.2%が診断支援でもっとも多く,次いで予後予測(13.0%),治療法開発(8.7%)の順で研究が行われていることが報告されている1).この傾向は,診断支援に対するニーズの高さを反映している.特に以下の三つの側面での改善が期待されている.
① 早期診断の実現:診療初期段階からAIによる診断支援を活用することで,専門医への適切な紹介時期の判断や鑑別診断の絞り込みが可能である.これにより,診断までの期間短縮と,より適切な専門医への紹介を実現する.
② 医療格差の解消:専門医不在地域においても,AIによる診断支援や医療情報の提供により,一定水準の診療が可能である.また,遠隔での専門医コンサルテーションの質も向上する.
③ 診療の質の向上:診断精度の向上に加え,最新の医学知見に基づく治療選択の支援や,希少疾患特有の複雑な病態理解を促進する.
2012年のディープラーニング(深層学習)の登場以降,医用画像を中心としたAI開発はめざましい発展を遂げてきた.さらに2022年末以降,大規模言語モデルの登場により,医療分野におけるAI活用の可能性は大きく広がっている2).画像診断支援に加え,医療情報の提供や診療支援など,AIの活用範囲は確実に拡大している3~5).特に希少疾患領域では,専門医の不足により適切な診断や治療が遅れる事例が多くみられる.また,患者や医療者が必要な情報にアクセスすることが困難な状況も存在する6).このような課題に対して,深層学習による画像解析モデル(画像AI)と,大規模言語モデル(言語AI)を組み合わせた包括的な戦略開発が期待されている.画像AIは,放射線画像や病理画像から特徴的な所見を抽出し,診断支援を行うことができる.一方,言語AIは,電子カルテ情報や医学文献から得られる情報を統合し,診断や治療方針の決定を支援することができる.これら二つの技術を組み合わせることで,より精度の高い診療支援が可能となる.本稿では,希少疾患におけるそれらのAI開発の現状と,最新の技術動向について解説する.特に限られたデータでいかに効果的なAIシステムを構築するか,また実臨床での活用に向けた課題について,実例を交えながら詳述する.

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