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は じ め に
股関節症に対して1960年代に導入され,多くの福音をもたらした人工股関節全置換術(THA)も,導入から早60年を経過した.この間,さまざまな経験を積み重ねながら現在にいたっているが,過去におけるTHAの成績を左右する主たる原因を ① ステム側,② 臼蓋側,③ 摺動面に分類し,さらにこれらをa)セメント使用,b)セメント非使用に分けて検討すると,1-a)セメント使用ステムでは近年多少の議論はあるものの,表面をpolish加工したtaper slip型ステムの使用1)と,できるだけセメント内の空包(void)発生を低減させる第三世代セメントテクニック2)により,良好な長期成績が得られるとの報告が多い.2-a)セメント固定臼蓋では,界面バイオアクティブ・セメント手技などさまざまな手法により長期成績が良好であるとの報告は散見される3)が,一般化された手技とはなっていない.また,ポリエチレンを直接セメント固定する様式では,骨頭径を大きくすることで,ポリエチレンのcreep変形をきたしやすいことから大径骨頭を使用しづらいという難点がある.一方,1-b)セメントレス・ステムは表面のmicro structure構造やハイドロキシアパタイトコーティング技術の応用などにより,その生体固着性はかなり安定しており,長期にわたる良好な成績が報告されるにいたっている4).また,2-b)セメントレス・カップについても,近年では表面のmicro structure coatingのみならず,3Dプリンタを使用した三次元造形によるカップの出現などさまざまなカップが使用できるが,オールpoly/セメント固定方式に比し,長期に良好な成績が得られているとの報告が多い5).
さらに,近年特にTHA後の成績を左右してきたものに摺動面におけるポリエチレン摩耗がある.微小なポリエチレン摩耗粉は骨溶解やこれに引き続き生じるインプラントの弛みをきたすとされているが,とりわけ1990年代に開発された架橋ポリエチレン(highly cross-linked polyethylene:XLPE)は,耐摩耗性についての実験結果6)の有効性から,2000年代初頭より第一世代XLPEとして国内でも使用されてきた.そしてXLPEは既存の高分子量ポリエチレン(UHMWPE)に比し,早期臨床において7)もはるかに低摩耗を実現したとの報告がなされている.そして,この良好な早期結果をふまえて,さらなる良好な結果を得るべく,第二世代,第三世代XLPEと呼ばれる,抗酸化剤添加XLPE8)や表面に含水機構をもつ材料を結合させたMPC-XLPE9),O2ラジカルを極力減らすことを目的に架橋回数を増やしたX3(ストライカー社)10)などが作成され,各社から市場に出回っている.しかしながら,現時点で20年以上の長期成績が出ているのは,第一世代XLPEのみである.高度架橋のなされていないUHMWPEの摩耗試験における金属骨頭に対するセラミック骨頭の優位性11)も考慮すると,近年の強靱化したセラミック骨頭12)もさらなる摩耗低減に一役買っているかもしれない.
本稿では,現在得られているTHAの長期成績について,これまでの報告や,各国におけるレジストリ,メタアナリシスの結果から,当科における経験も含めて,その成果を報告するとともに,今後さらなる長期にわたる良好な成績を得るために必要と考えられる要素を検討した.
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