私論
マクナマラの誤謬
䯨 賢一
1
1関西医科大学整形外科准教授
pp.1366-1366
発行日 2023年12月1日
Published Date 2023/12/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_seikei74_1366
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McNamara(マクナマラ)とは,ベトナム戦争時代に米国国防長官を務めた人物で,数字にばかりこだわり物事の全体像を見失うことを「マクナマラの誤謬(ごびゅう)」と言うそうです.彼の前職はFord社の社長であり,最新の統計学を駆使して経営苦境にあった同社を救いました.その手腕を買われ,John F. Kennedy大統領から国防長官として任命され,キューバ危機を救った人物でもあります.しかし,ベトナム戦争においては,「アメリカ兵の死亡数とベトナム兵の死亡数の比率」にのみ着目し,「アメリカ兵の死者数よりも多くベトナム兵が死亡している限り,軍は勝利への道を進んでいる」と判断しました.また,「測定できないものを管理することはできない」という有名なビジネスフレーズを使用し,死者数以外の定量化できない指標は「戦争の勝敗とは無関係」と主張し続けました.結果,数値で計り知れないベトナム人の愛国心とアメリカ国民の反戦感情により,アメリカは泥沼の戦争の末,敗北に至ったのは周知の事実です.
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