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は じ め に
筆者は,整形外科医としてのキャリアの多くを,「がんセンター」あるいは「大学病院」で過ごしてきた.これらの施設では医師の異動が多く,さまざまな他診療科医師との交流があった.われわれは骨・軟部腫瘍を専門とするため,肉腫や血管腫,軟骨芽細胞腫など専門病院での診療を要する疾患に多くの診療時間が割かれる結果,他科のがん患者への診療時間は確保しづらい.しかし,自分たちにとって不十分といわざるをえない対応ですら,「これまでの病院では整形外科医がほとんど対応してくれず,ここまで動けるようになるとは感激です」とたびたびいわれることに,戸惑いを隠せなかった.これほどまでに,他科でがんの治療を受けている患者の運動器にかかわる問題は放置されてきたのである.
日本は,1970年に65歳以上が全人口に占める割合(高齢化率)が7%以上の高齢化社会を迎えたが,高齢化は加速し続け,37年後の2007年には高齢化率が21%以上の超高齢社会に突入した.2020年の日本の高齢化率は28.7%にも及び,世界中のどの国よりも高齢化率が高く,今後も上昇を続けることが予想されている.そのような世界一の超高齢社会のなかで,高齢であっても運動機能を保つことが重要であることは,いまさらながらいうまでもない.骨折や変形性関節症,脊椎疾患などの動けない状態を改善する手術のみならず,その動けない状態を未然に防ぐべく,生活指導をしたりリハビリテーションを行ったりすることは,個人のみならず都市全体を,さらには国全体を健康に保つことにつながり,非常に重要である.
高齢者か否かにかかわらず,個々の運動機能を保つための努力は,運動器の専門家である整形外科医として惜しむべきではない.しかしながら,がんを理由にその努力をしようとしない整形外科医が少なくない哀しき現実がある.日本人の2人に1人が生涯にがんと診断される,まさに「がん時代」を迎えたにもかかわらずである.
本稿では,いかに整形外科医が「がん時代」に求められているか,整形外科がどのように「がん時代」に役に立てるかを伝えたい.今後の整形外科を担う皆さんにとって,本稿が「がんロコモ」に関心をもち,正しく理解し対応していくための第一歩となることを期待する.
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