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は じ め に
日本人の平均寿命は過去60年で約30年延伸し,世界一の長寿国となった.老年人口割合は1950年(4.9%)以降一貫して上昇が続いており,1985年に10%,2005年に20%を超え,2020年には28.7%となり,わが国はすでに2007年から超高齢社会に突入している.平均寿命の延伸は,高齢者の要介護や寝たきりの問題をもクローズアップすることになった.介護保険事業状況報告の概要(令和2年2月暫定版)1)によると,要介護(要支援)認定者数は667.4万人となり,2000年の218万人から20年で3倍と著しいスピードでの増加を認めている.厚生労働省国民生活基礎調査の概況をみると,要介護になった理由について,2016年に認知症がはじめて脳卒中を抜いて1位となって以来2),認知症,脳卒中,高齢による衰弱,骨折・転倒,関節疾患の順で固定化してきており,2019年の国民生活基礎調査によればその割合は認知症(17.6%),脳卒中(16.1%),高齢による衰弱(12.8%),骨折・転倒(12.5%),関節疾患(10.8%)となっている.さらに要介護にまではいたらない要支援の段階での原因疾患をみると,1位関節疾患(18.9%),2位高齢による衰弱(16.1%),3位骨折・転倒(14.2%)となっている.高齢による衰弱の身体的要素の主体をなす病態が筋力の低下を含む疾患概念である加齢性筋量減少症[サルコペニア(sarcopenia:SP)]であることを考えると,関節,筋肉,骨の疾患が上位3位を占め,要介護への移行を食い止めるには,まず運動器疾患の予防が重要であることが明らかである.
運動器疾患の効果的な予防のためには,まずそれらの疫学指標(有病率,発生率,自然経過,予後)を同定し,影響を及ぼす危険因子を解明する必要があるが,症状が乏しい初期の医療機関の受診が少ないため,医療機関調査ではその実態をとらえることはできない.したがって,一般住民を対象として集団を設定し追跡調査を行うコホート研究が重要となってくるが,運動器疾患を予防対象疾患とした一般住民コホート研究はまだ十分とはいえない.
筆者らは,高齢者の生活の質(QOL)維持向上と要介護予防のために,主として運動器疾患の基本的疫学指標を明らかにしその危険因子を同定することを目的として,2005年より大規模住民コホートResearch on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability(ROAD)スタディを開始した3,4).ROADスタディでは,都市型コホート(東京都1,350人),山村型コホート(和歌山県864人),漁村型コホート(和歌山県826人)という特性の異なる3地域コホートを設置し,2005~2007年に3,040人のベースライン調査を完了した.ベースライン調査参加者に対しては,400項目からなる詳細な問診票調査,栄養調査,握力,歩行速度,身体測定,dual energy X-ray absorptiometry(DXA)法による骨密度測定,尿検査,血液検査を行い,脊椎,股関節,膝関節のX線撮影を実施し,整形外科医による診察を行った.さらに,3年後(第2回調査),7年後(第3回調査),10年後(第4回調査)に実施し,2019年末にベースライン調査から13年後の第5回調査を終了した.第2回調査以降は,ベースライン調査項目にさらに新たな項目を追加した住民検診を実施している.筋力測定についてはベースライン調査から実施しているが,筋量測定は第2回調査からであり,SPについての疫学指標は第2回調査以降の推定となる.
図1にROADスタディの主たる検査項目を示す.ROADスタディは第5回調査を終了した段階で,総延べ参加者数13,559(男性4,462,女性9,097)人を数え,総参加者数4,770(男性1,612,女性3,158)人からなる運動器疾患を予防対象とした世界最大規模のコホートとなっている.
本稿では,開始から16年目を迎えすでに第5回調査を終了したROADスタディの結果から,ロコモティブシンドローム(ロコモ)の有病率についてはすでに述べているので(Ⅰ-2),ロコモの原因疾患であり要介護の主要な原因をなす変形性関節症(osteoarthritis:OA),骨粗鬆症(osteoporosis:OP),SPそれぞれの疫学指標と相互関係について報告する.
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