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日常診療において,転移性骨腫瘍患者について相談を受ける機会は日々増えている.今から20年以上前に研修医をしていたころは,転移性骨腫瘍治療は緩和ケアとしての除痛のため,放射線照射のみで終わりにしていたように思う.予後が限られており,手術適応なしとされることが多かった.しかしながら特にここ数年は大きく状況がかわっている.当センターは埼玉県にあるが,県外から多くの転移性骨腫瘍例が手術目的で紹介されてくる.理由の多くは「とにかく迅速に移動可能にしてほしい」とのことである.このように積極治療が求められるようになったことにはいくつかの理由があると思われる.一つにはがん患者の生命予後が飛躍的に延びており,担がん状態で長期生存する患者数が増加していることにあるであろう.そして,骨という運動器が障害されると移動が困難になり,治療続行性が妨げられるからであろう.さらには,治療戦略がいまだ揺籃期にあり成熟したプロトコールなどないことから,骨・軟部悪性腫瘍に慣れている施設に県を超えてでも紹介して何とかしようということになるものと思われる.とはいえ,年間新規がん患者発生数が100万人前後で推移し,本書によるとがん患者の10~20%に転移性骨腫瘍が発生するとのことである.がん患者の生命予後が延びている中で脊椎転移は今後も増加することは確実であろう.さらに,がん診療においては脊椎転移のみならず,変形性脊椎症など骨シンチグラフィやPET-CTでhot spotとして描出されるため,転移と誤診される周辺疾患にも気を配る必要がある.さらには治療に起因した二次性骨粗鬆症による椎体骨折や,非定型大腿骨骨折,顎骨壊死など各科連携のうえ,治療のさじ加減を考えていく必要がある.
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