私論
Evidence-based medicine(EBM)で片づけられない交通事故診療の難しさ
山田 圭
1
1久留米大学整形外科・医学教育研究センター准教授
pp.128-128
発行日 2020年2月1日
Published Date 2020/2/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_seikei71_128
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交通事故による死傷者は1970年の99万7,861人から1977年には602,156人にまで減少し,2017年には584,544人と減少傾向を示しているが,依然として高い水準にある.負傷者のうち重症者数は36,895人,軽傷者数は584,544人と報告されている(内閣府,道路交通事故の動向1)).軽傷者の多くは「頚椎捻挫」など頚部痛を主訴とし,ケベック分類gradeⅡまでは,外用薬,薬物療法,短期間の理学療法で経過良好とされている.しかし北米の報告では,受傷後3年でも約50%の患者に何らかの症状が残存し,20%が何らかの日常生活動作(ADL)障害を自覚している.2019年に『Plos One』でHayashiらは,自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)終了までの期間は中央値220日,受診回数は中央値102回と報告したが,この値は地元筑後の臨床整形外科医会の先生方から見れば非常に高値であるという.難治性となった患者が集中する医療施設を反映した結果と考えられるが,器質的には軽微な外傷でも,難治例が存在していることを示している.整形外科は,難治化する要因を継続的に研究し,高齢,女性,受傷後早期の受診,初診時の頚部痛の強さを指摘し,逆に自動車の損傷程度,衝突形式,自動車のサイズは関連がないなどのデータを蓄積してきた.そのevidenceをもとに患者に説明し,以前は「むち打ち損傷」と診断され頚椎カラーを装着している患者の姿をよく見かけたが,現在ではケベック分類grade Ⅲ以上でなければそのような光景は見かけなくなり,多くの患者の予後は良好である.
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