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医師になって30年,腫瘍学は驚くべき変化を遂げた.学生のときには「慢性骨髄性白血病は緩徐に進行するが,やがて急性転化を起こし結局予後はたいへん不良」と習ったものである.2001年に市販された分子標的薬の先駆けイマチニブの登場で,10年生存率は80%を超えているという.破骨細胞形成のキーファクターであるreceptor activator of nuclear factor kappa-β ligand(RANKL)への抗体薬が2014年より骨巨細胞腫の特効薬として使用可能となり,画期的な効果をもたらしてくれている.少し前までは,骨転移の原発巣が肺であることが分かったとき,整形外科医も呼吸器内科医も深いため息をつきながら「あと半年か」とつぶやいたものである.今は腫瘍免疫を調整するprogrammed cell death 1(PD-1)分子に対する抗体薬が出現し,2015年より肺がんで使用可能になり驚異的な緩解例を目にする.まさに夢の医療の時代が来たかに思える.
しかし夢の医療の影として,その高額な悪夢ともいえる医療費問題がクローズアップされている.イマチニブが市販されたとき,1日薬価が1万円を超えることに驚愕した.効果がある限りこの薬剤を終生内服する必要があり,現実にこの薬剤によって慢性骨髄性白血病で亡くなる方は激減しているから,この薬剤費は右肩上がりに増加した.PD-1分子に対する抗体薬は1年間使用継続すると薬価が3,000万円を超過し,急遽薬価の改正が行われたことは記憶に新しい.改正後でも現時点で1年使用継続では1,000万円を超えるお金が必要となる.この薬剤は悪性黒色腫,肺がん,腎がん,頭頚部がんそして最近は胃がんにも保険適用が認められた.次の薬価改正でさらに値下げされるとは聞くが,様々な腫瘍の領域で様々なタイプの新規薬剤が開発されており,いずれも驚くほど高額である.さらには米国で開始された遺伝子改変技術を用いた白血病に対する自己免疫細胞治療では,1回の治療に5,000万円の直接費用とほぼ同額の補助薬剤費用が必要,つまり1億円が必要だそうである.抗RANKL抗体の薬価が2018年現在で月に5万円弱であるが,これが安いと感じてしまう自分が恐ろしい.
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