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は じ め に
腰痛は8割の人がその生涯で一度は経験する症状であり,整形外科受診患者の主訴としてもっとも頻度が高い.わが国で腰痛を有する人は推定1,300~2,800万人,ある1ヵ月間の住民の腰痛の有病率は男性25.2%,女性30.5%との推計がある1).厚生労働省が3年に1回実施している国民生活基礎調査で日本国民が有している愁訴の第1位は腰痛であり,実際に医療機関に通院している患者数も第4位である(図1)2).45歳以下の就業不能あるいは労働災害の原因としてもっとも多いのも腰痛で,休業補償ならびに就業不能による労働機会の損失を併せると治療費の3倍に及ぶとの試算もあり,腰痛はわが国の医療・社会経済上の大きな問題となっている3).
厚生労働科学研究研究班(慶應義塾大学・戸山芳昭班長)が全国規模で実施したアンケート調査によって,わが国の人口の15.4%が6ヵ月以上持続するvisual analogue scale(VAS)で5以上の運動器慢性疼痛を有しており,中でも腰痛,頚部痛など脊椎関連症状の頻度が高いことが明らかとされた.さらに,こうした運動器慢性疼痛を訴える患者の半数以上が治療を受けておらず,治療を受けている者の約半数は医療機関ではなく民間療法を受けていること,さらに医療機関,民間療法を問わず,いずれの患者も治療に対する満足度が低く,受療機関を変更する割合が高いことなど,さまざまな問題点が浮上した(図2)4).同研究班では追跡(二次)調査を実施し,疼痛がさらに1年以上持続している例が45%にのぼり,VAS≧7,疼痛をほぼ毎日訴える,3年以上持続する疼痛などが疼痛持続の危険因子であったと報告している5).さらに2年後のpainDETECTやHospital Anxiety & Depression Scale(HADS)を用いた三次調査において,運動器慢性疼痛をもつ例の20%が神経障害性疼痛を有し,その関与の度合いが強いほど疼痛の訴えが強いこと,また,不安やうつ状態にある患者ほど疼痛が強く,その持続期間も長いことを報告した6~8).
数多くの研究によって腰痛の実態が明らかにされ,新たな治療法が開発されてきたにもかかわらず,腰痛を訴える患者はむしろ増加傾向にあり,その治療にかかる医療費も年々増大している.腰痛に対する有効な治療法を提供することは運動器の専門家である整形外科医にとって喫緊の課題である3).
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