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は じ め に
投球動作の加速期には肩関節前方脱臼に近い前方穿断力が,ボールリリース時には自重の1~1.5倍の牽引力が肩関節に加わるため1),投球は肩関節にとって決して安全な運動ではなく,その繰り返しによりさまざまな障害が発生する危険性があることを認識する必要がある.投球障害肩は,肩のみのオーバーユース障害ではなく,体の他の部位の機能不全や運動連鎖の乱れにより肩にオーバーストレスが加わり結果的に生じる障害である2).その要因にはオーバーユース,不良なコンディショニング,不良な投球フォームがあるが3~5),成長期においてはさらに,肉体的に未熟であり骨端線が存在すること,筋力・体力が不十分であること,growth spurtにより下肢タイトネスが顕著であること,同学年でも成長にばらつきがあること,技術的に未熟であること,そして指導者の指導能力に差があること,練習・試合が週末に集中することなどの環境因子にも留意する必要がある7).
診断については,画像診断技術が進歩した今でも疼痛の局在(図1)や圧痛の確認(図2)は不可欠である.神経・血行障害は画像所見に乏しく,念頭にないと見逃す可能性が高まる8,9).他の画像所見が明瞭な器質的病変を複合している場合にはそちらに意識が集中してしまう.他の器質的病変で説明のつかない肩の疼痛・運動制限を認めた場合や肩甲上腕関節内または肩峰下滑液包内局所麻酔剤注射で疼痛が消失しない場合には,胸郭出口や肩関節周囲の末梢神経走行部位の圧痛を確認する.
治療は,保存的治療法が主体であり,成長期の身体特性に配慮しつつ,要因と考えられる不良なコンディションや投球フォームに対するアプローチが必須である2~7).コンディショニングや投球動作指導については別を参考にしていただき,本稿は成長期の野球選手に生じうる各病態について概説したい.
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