誌説
人工股関節のカップ角度のセーフレンジ(セーフゾーン)
菅野 伸彦
1
1大阪大学運動器医工学治療学寄附講座教授
pp.110-110
発行日 2018年2月1日
Published Date 2018/2/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_seikei69_110
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人工股関節全置換術では,摺動部材料の耐摩耗性向上でインプラント生存率も伸び,20年以上は再手術しなくてもよい時代になりつつある.患者の術後活動性に対する要求度も高まり,特定肢位を禁止する動作制限はしなくても脱臼せずに生活できる時代になってきている.動作制限をしなくても脱臼を起こさせないためには,適切なカップ設置角度と軟部組織の緊張が重要である.
1978年に報告されたLewinnekの人工股関節カップ角度のカップセーフレンジ(LSR)は有名で,術後X線正面像から計測したカップ外転角40°・前捻角15°を中心とした外転角及び前捻角±10°をセーフレンジとして,その枠の外側での脱臼率が高いとした.LSRから外れたカップのX線像をみると一目で設置角度不良とわかり,脱臼すれば角度不良が原因であると直感的に判断しやすい.多くの習慣性脱臼例は,カップ角度不良による日常生活動作でのインピンジメントを起点に脱臼するため,再置換で角度を修正すると拘束型を使用しなくても脱臼しなくなることがほとんどで,抜去インプラントにもインピンジメントによる摩耗や破損痕跡がみられる.しかしながら,LSRの外でも脱臼しない症例があったり,逆に内側でも脱臼する症例が存在するため,現在でも適切なカップ設置角度については意見が分かれ,なかには適切なカップ角度の存在を否定するものまでいる.本当に,個々の患者ごとに適切な角度は存在しないのであろうか? 存在すると信じている筆者からすると,LSRの問題点を認識しないまま引用したり,適当にLSRを改変したりしているのが混乱の原因と思われる.そこで,LSRの4つの大きな問題点を以下に指摘しておきたい.
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