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『日本整形外科学会 症候性静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2017』が本年5月20日に発刊された.本ガイドラインは2008年11月に発刊された『日本整形外科学会 静脈血栓塞栓症予防ガイドライン』の構成を踏襲して執筆された,いわゆる改訂版であろうと思っておられる諸氏の予想は大きく裏切られることになる.まず,本のタイトルからして異なっている.「症候性」という言葉が付け加えられたのである.これは米国胸部医学会(ACCP)ガイドライン(2012年)および米国整形外科学会(AAOS)ガイドライン(2011年)の動きに追随して,従来予防すべきか否かさえ意見の一致をみなかった無症候性静脈血栓塞栓症(VTE)から症候性VTEとすることで,予防すべき対象を明確にし,恩恵に与かる患者の利益を最優先した結果,付け加えられたものである.しかし,そのために本ガイドライン策定委員会の4人のメンバーは苦悩を強いられることになる.臨床治験から得られたエビデンスのほとんどはその対象が無症候性深部静脈血栓症(DVT)であり,発症頻度が低い症候性VTEを対象とした前向き臨床研究が実施されていないため,ガイドラインにとっての生命線である質のよいエビデンスが乏しくなってしまったのである.
本ガイドラインはその壁を打破するため,上記ACCPおよびAAOSのガイドラインに加え,日本循環器学会ガイドライン(2009年),日本骨折治療学会『骨折に伴う静脈血栓塞栓症エビデンスブック』(2010年),英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドライン(2010年),雑誌『International Angiology』(2013年)に掲載されたInternational Consensus Statementを取り込むかたちで執筆されている.この6つのガイドラインを読破することは容易なことではないが,本ガイドラインを通読することで同等の効果が得られるとは何ともありがたいことである.さらに,推奨グレードをA:推奨する,B:提案する,C:委員全員が合意する,I:結論は出ていない,の4グレードに変更したため,非常に理解しやすくなっている.それ以外にも2008年版のガイドラインと比較して,症候性VTEの一次予防に限定されている点,画一的な予防法を否定している点,一覧表の掲載を削除した点,利益相反あるいはバイアスが取り除かれている点,医事紛争の証拠として使用される問題に配慮されている点など,多くの点で改良がなされている.
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