整形トピックス
慢性疼痛モデルマウスにおける大脳皮質体性感覚野神経回路再編とグリア機能
江藤 圭
1
,
金 善光
1
,
鍋倉 淳一
1
1生理学研究所生体恒常性発達研究部門
pp.1284-1284
発行日 2017年11月1日
Published Date 2017/11/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_seikei68_1284
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慢性疼痛は持続的に痛みが継続する病的な状態であり,中枢神経系の異常により生じると考えられている.痛み情報は末梢から脊髄を経由してさまざまな脳領域へと伝達される.その中でも一次体性感覚野(S1)は痛みの強度・部位を認識する領域である.しかし,この領域の慢性疼痛における役割,活動の変容機構はほとんど不明であった.
慢性疼痛時にはS1領域の活動が亢進することが,ヒトやげっ歯類を用いたイメージング実験で報告されている1).単一細胞レベルでは,筆者らのグループが2光子顕微鏡を用いたin vivoイメージングにより,炎症性モデルマウスにおいて第2/3層興奮性神経細胞活動が亢進することを明らかにした.S1興奮性神経細胞の過剰亢進した活動を抑制するとアロディニア様の症状が改善することから,この興奮性神経細胞の活動亢進が疼痛行動発症に重要な役割を担っていることが示唆された2).また坐骨神経損傷モデルにおいても,S1神経細胞の活動が増強することが示されている3).一方,慢性疼痛時には大脳皮質の興奮性神経細胞だけでなく,抑制性神経細胞の活動も増加する4).しかし,興奮性神経細胞のカリウム・クロライド共輸送体(KCC2)の発現が減弱し,GABAの抑制力が減少するため,過剰な興奮性神経活動を抑制しきれず疼痛行動が生じる.このように,慢性疼痛時にはS1内の神経活動の可塑的変化により興奮・抑制性神経細胞活動が劇的に変化し,疼痛行動が生じると考えられる.
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