連載 Focus On
睡眠薬の使い方を改めて考える
大沼 徹
1
1順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学
キーワード:
睡眠負債
,
睡眠薬
,
非薬物療法
Keyword:
睡眠負債
,
睡眠薬
,
非薬物療法
pp.1207-1213
発行日 2018年12月1日
Published Date 2018/12/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_naika122_1207
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近年,英国の研究者によって「睡眠負債」という言葉が提唱され,韓国に次いで睡眠時間が短いわが国でも,睡眠不足により,眠気による作業効率の低下や,睡眠が原因の遅刻・欠勤,さらに近年では過重労働による長距離バスの交通事故などが社会的問題となっている.これらによって生じる経済損失だけでなく,睡眠不足による健康被害も大きく,政策である「健康日本21」で,十分な睡眠をとることの重要性をあげている.
この半世紀で睡眠薬の開発も進み,不眠症に対する投与薬も変化している.① 1950年代のバルビツール系睡眠薬,② 1960年代のベンゾジアゼピン系睡眠薬,③ 1980年代の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬,④ 2010年のメラトニン受容体作動薬,そして ⑤ 2014年のオレキシン受容体拮抗薬,の登場である.しかしながら,身体科の先生の睡眠薬処方を拝見すると,いまだに半世紀前の ② ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主流となっており,しかも高齢者であっても筋弛緩作用が強く,消失半減期が12時間以上の睡眠薬が投与されていることに驚く.四半世紀前と比べ,睡眠薬も多種多様となり治療者側にも選択ができる現在では,的確な薬剤選択がなされないと医療事故にもつながりかねない.現在,不眠症はどの科の医師も治療する疾患であるため,睡眠薬処方においてはわれわれ精神科医が日々活用している基本的な情報を本稿で共有したいと思う.
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