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医学,医療の進歩に伴い,疾病構造や治療体系はダイナミックに変化しています.消化器内科領域,とくに消化管領域では良性疾患,悪性疾患のいずれにおいても入院診療ではなく,外来診療で対処可能な疾患が増えたことや,高齢化社会を背景とした入院診療における在院日数短縮の社会的必要性の高まりも相まって,外来診療の比重が増しています.消化性潰瘍はその顕著な一例です.
2017年に生誕150年を迎えた夏目漱石は胃潰瘍のために49歳で亡くなりました.医聖ヒポクラテスが紀元前4世紀に初めて消化性潰瘍の存在を報告してから,この漱石が亡くなる約100年前まで,消化性潰瘍の治療は “療養” のみでした.1899年には本邦初の幽門側胃切除術,漱石の死から2年経った1918年に本邦初の胃全摘出術の成功が報告されました1).その後,外科的治療が長らく消化性潰瘍治療の中心を担ってきましたが,1960年代からは止血において消化器内視鏡が使用されるようになってきました2).画期的な酸分泌抑制薬として1970年代にヒスタミンH2受容体拮抗薬が開発され,1980年代から保険適用になりました.1980年代にプロトンポンプ阻害薬が開発され,1990年代から保険適用になり,薬物療法が主流となりました.しかし,再発予防のためには維持療法が必要でした.1983年にHelicobacter pyloriが発見され,消化性潰瘍との関連が明らかになり,2000年に除菌療法が保険適用になると,1週間の除菌薬内服によって高い確率で除菌が成功し,維持療法を行うことなく,消化性潰瘍の再発が予防できるようになりました(図1)3).近年は高齢化とそれに伴う,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)処方や抗血栓療法の普及に伴う薬剤性潰瘍が新たな問題になっています.このように疾病構造や治療体系は目覚ましくダイナミックに変化しています.
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