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はじめに
私たち日本人が最期を迎える場所は,1975年(昭和50年)までは病院41.8%,自宅47.7%であり,病院よりも自宅で看取りをすることが多かった.1980年(昭和55年)頃から病院52.1%,自宅38.0%と病院で看取ることが増え,令和4年度は,病院64.5%,自宅17.4%(新型コロナウイルス感染流行前の令和元年は自宅13.6%)であり1),在宅医療を希望する人は多いが,現状では6割以上の人が病院で最期を迎えている.
令和4年度,「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書」2)では,病気で治る見込みがなく,およそ1年以内に徐々にあるいは急に死にいたると考えたときの最期を迎えたい場所について調査しており,その結果は「自宅」を選択した割合が43.8%ともっとも多い.「自宅」を選択した理由について,「住み慣れた家で最期を迎えたいから」「最期まで自分らしく好きなように過ごしたいから」「家族等との時間を多くしたいから」との回答が多かった.一方で,最期を迎えたい場所として「医療機関」を希望したのは41.6%で,そのうち「介護してくれる家族等に負担がかかるから」は74.6%,「症状が急に悪くなったときの対応に自分も家族等も不安だから」が57.2%との回答が多かった.この結果から,最期を医療機関で過ごすことで患者・家族は安心を得られるが,患者が医療機関を選択する理由の7割以上は「家族等の負担」を考えてのことであり,本当は迷惑がかからなければ家族と自宅で過ごしたいのではないか,ゆえに自分の気持ちよりも家族のことを考えて「家に帰りたい」と家族に言えないことが多いのではないかと推測する.
今回,「最期は病院でいい」というA氏に,果たしてそれでよいのかと疑問をもちながらかかわり,本心を聴くと関係性のスピリチュアルペイン(苦悩)の存在があった症例を報告する.
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