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味覚変化に伴う苦痛
「食べる」ことは,生命維持に必要な栄養素を補給するだけではなく,日常生活の貴重な楽しみであり,おいしさや幸福感などのポジティブな感情を伴う行為である.家族や友人との食事は日常生活における大切な楽しみであり,幸福を感じるひとときである.今般,COVID-19の流行に伴う社会活動の制限により,私たちは飲食を伴う交流の大切さと有難さを痛感したところである.
がん患者における味覚変化は,口腔や脳腫瘍など疾患によるもの,化学療法や放射線療法など治療の副作用によるもの,がん細胞の増殖に伴う亜鉛不足などにより生じるものがあるが,なかでも化学療法による味覚変化は,3~7割の患者に生じ1~3),食事量の低下や低栄養の原因となる4).
がん化学療法の臨床では,「口の中が苦い」「味が感じにくい」「食べ物本来の味がしない」「おいしくないけれどがまんして食べている」などの訴えがよく聴かれる.
味覚変化は,食事の時間からおいしさや楽しさ,幸福感を奪い,不快感や残念な気持ちと向き合う苦痛の時間にしてしまう.「食べたい」という欲求に促されて食事を口にしても,「おいしい」という幸福感は得られない.このため,食事は空腹を満たし,体に栄養を補給するだけの義務的な行為となってしまう.本来は楽しみで待ち遠しいはずの食事の時間は,つらい仕事や治療のように義務的な時間となり,親しい人との飲食を伴う交流も,苦痛や寂しさを感じる虚しい時間となりかねない.
このように,味覚変化は身体・心理・社会的・スピリチュアルな苦痛をもたらし,生活の質に深刻な影響を与えることから,味覚変化症状への支援はがん看護においてきわめて重要な事項となる.2022年2月には,厚生労働省『重篤副作用疾患別対応マニュアル』における「薬剤性味覚障害」の項5)が11年ぶりに改定され,味覚変化症状や早期発見・早期対応への関心が高まっている.本稿では,化学療法に伴う味覚変化症状の概要と症状アセスメント,患者支援の視点などについて紹介する.
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