- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
どんな薬?
肺がんは,死亡数が男性第1位,女性第2位と高位で,5年相対生存率は34.9%と低く,ほかのがん種に比べて圧倒的に予後がわるい疾患です.そのため,肺がんで使用する抗がん薬の開発は非常に活発で,プラチナ製剤をはじめとした殺細胞性抗がん薬,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬による多剤併用化学療法レジメンも数多く発表されています.肺がんでは,細胞増殖に深く関与している遺伝子の変異,いわゆるドライバー遺伝子(EGFR遺伝子変異,BRAF遺伝子変異,MET遺伝子変異,ALK融合遺伝子,ROS1融合遺伝子,NTRK融合遺伝子など)が数多く発見され,それらに対応した薬剤による個別化医療が進んでいます.
クリゾチニブはALK融合遺伝子,ROS1融合遺伝子を標的とした薬剤で,非小細胞肺がんの治療に使用されています.開発当初はALK融合蛋白質の標的薬として承認されていましたが,後の研究でROS1融合蛋白質にも効果があることがわかり,拡大承認されました.
ALK (Anaplastic Lymphoma Kinase)とは,未分化リンパ腫キナーゼのことで,細胞増殖にかかわっている蛋白質です.ALK蛋白質を作り出すALK遺伝子がなんらかのきっかけでほかの遺伝子(肺がんではEML4遺伝子など)と融合し,ALK融合遺伝子という異常な遺伝子になります.ALK融合遺伝子はALK融合蛋白質という異常な蛋白質を作り出し,異常な細胞増殖を起こします.非小細胞肺がん患者の中の約2~5%がALK融合遺伝子が陽性で,肺腺がんで50代の比較的若い患者,非喫煙者に多い傾向があります.また,EGFRやKRAS, HER2の遺伝子変異がある肺がん患者はALK融合遺伝子はほとんど認められないという特徴ももっています.ROS1融合遺伝子は,ROS1遺伝子がパートナー遺伝子の一部と融合してできた異常遺伝子で,非小細胞肺がんの約1~2%に認められます.ROS1融合遺伝子から産生されるROS1融合蛋白質は,内在するチロシンキナーゼが恒常的に活性化することにより異常な細胞増殖を起こします.
2022年9月現在までに承認されているALK阻害薬は5剤で,クリゾチニブが第1世代の薬です.クリゾチニブによって50%を超える奏効割合を得ることができましたが,その後一定期間使用するとキナーゼ内に2次変異(ALK点突然変異)が起こり,薬剤耐性を獲得することがわかってきました.薬剤耐性を示すがんにも有効である第2世代・第3世代のALK阻害薬が開発されました(表1)が,いずれも一定期間の使用後に薬剤耐性を獲得することがわかっており,今後の課題となっています.
© Nankodo Co., Ltd., 2022