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特集にあたって
ヒトゲノムの解析やがんに関係のある遺伝子変異の同定が進んだことで,がんゲノム情報を利用して患者に最適な治療法を選択するオーダーメイド医療の実現に向けて,各国が取り組んでいます.
日本では2014年ごろからゲノム医療の実現に向けた取り組みを推進する動きが始まり,2018年3月に閣議決定された第3期がん対策推進基本計画の分野別施策に「2.がん医療の充実 (1)がんゲノム医療」の項目が新たに加わりました.このことによって,がんゲノム医療に携わる医療職や遺伝カウンセラーの育成,それぞれの役割の明確化,がん患者への情報提供体制,倫理的配慮,医療経済問題への取り組みなど,がんゲノム医療を実施するための体制づくりは加速してきています.また,ゲノム医療を必要とするがん患者が,全国どこにいても,がんゲノム医療を受けられる体制を構築するために,がんゲノム医療中核拠点病院12ヵ所,がんゲノム医療拠点病院33ヵ所,がんゲノム医療連携病院161ヵ所が指定されました.指定施設に所属する医療者は,受け入れ体制や実施に向けたシステムを調整し,患者を受け入れる体制づくりを行っています.そのため,最近ではがん遺伝子パネル検査を希望する患者も増えてきています.
がん遺伝子パネル検査を希望する患者の多くは,標準的治療を受けて効果が得られなかった場合や特定治療薬の効果の有無を判断する場合であり,検査結果への期待も大きいです.しかし,検査で遺伝子変異が明らかになってもこれに対する治療薬がないといったケースや,検査を受けたことで偶発的に見つかる生殖細胞系列の遺伝子異常に衝撃を受けるケース,経済的な問題,検査結果の受け取り期間が長く,生存期間へ影響してしまうといった問題があります.
がんゲノム医療を推進していく中で,看護師への役割期待は大きいのですが,がんゲノム医療を理解するのは非常にむずかしく,どのように実施していけばよいのかわからないといった意見を多く耳にしていました.また,本誌にも,数年前からがんゲノム医療を理解するためのリソースがほしいという要望が多く寄せられていました.そういった状況からゲノムとは何か,がんゲノム医療に対する国の動向,がん遺伝子パネル検査の内容・方法,実施しているがんゲノム医療と看護師の役割について本特集を計画しました.最先端で活動されている専門職の方々から情報提供していただき,この一冊でゲノム医療とがん看護についての情報を系統的に知ることができるように構成しています.ぜひ,活用していただければ幸いです.
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