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促進因子・阻害因子・バリアの特徴
がん薬物療法に伴う皮膚障害は,殺細胞性抗がん薬で起こる細胞毒性による作用や色素異常のみならず,分子標的治療薬による手足症候群やざ瘡様皮疹,びらん,爪囲炎,免疫チェックポイント阻害薬による特有の皮膚症状など多岐に渡る.これらの皮膚障害は,放っておくと重症化し,患者の生活の質(QOL)を低下させるだけでなく,がん薬物療法の継続が困難となり,治療強度にも影響をおよぼす.そのため患者は,皮膚障害の予防策や症状に合わせた複数かつ複雑な処置を行うことが必要となる.予防として重要な観察やスキンケアは,患者個人のこれまでの生活習慣や背景に大きく影響される.1週間の入浴回数が人によって異なるように,患者のライフスタイルを把握したうえで,具体的なスキンケアの方法をともに検討していくことが必要となる.さらに,皮膚障害への治療には,テーピングや患部切除などの処置が必要となる場合もあり,専門の皮膚科医とも連携を図っていくことが重要がある.
がん薬物療法時の皮膚障害に対する治療アドヒアランスに影響をおよぼす要因には,一般的な服薬アドヒアランスへの影響要因1)に加え,特徴的な促進因子として,予防の重要性認識,施設における具体的な対応策(手順)の確立,患者・家族向けのわかりやすい説明書,多職種連携などが挙がるだろう.また,阻害因子としては,予防的内服の効果に実感ないことでの不満や定期的な内服や処置がむずかしい生活習慣,テトラサイクリン系抗菌薬や抗アレルギー薬の副作用(めまい・眠気など),スキンケアの必要性や皮膚乾燥に対する軽視,軟膏塗布方法や適正量の理解不足,保湿剤の使用感,ステロイドという言葉への抵抗,症状・部位により塗布する軟膏が異なり複雑なことなどが挙げられる2).また最近では,COVID-19に対する感染予防として手洗いや速乾性アルコール手指消毒薬を使用する機会が多く,乾燥や手荒れの増強,亀裂部位にしみることでの疼痛,手指や爪の処置後の状態保持困難なども,治療アドヒアランスに大きく影響をおよぼしているといえる.
バリアの特徴としては,医療者側では,皮膚・粘膜の構造や爪・色素などの変性のメカニズムなどの知識不足,皮膚障害へ対する軽視,外来での患者指導におけるマンパワー不足,時間確保困難などが挙げられる.また,患者・家族側のバリアの特徴には,認知機能,生活習慣,日々のスキンケアへの意識,ケアに要する時間の確保,衣類や靴へのこだわり・嗜好などが挙げられる.これらのバリアに対し,多職種が連携・協働し,早期より対応策を実施していくことが求められる.
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