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アドヒアランスの定義
医療者が必要だと判断したことに患者が応じることを“コンプライアンス”といい,患者が医療者の指示に従うことが当然としてこれまで考えられてきた.しかし,医療自体を利用するかも含め,患者の人生に責任を負うのは基本的には患者自身であり,患者がもつ経験や価値観は,何一つとして同一ではない.そのため,それぞれが抱く治療に対する想いや価値観を尊重したかかわりが,時代とともに医療者に求められるようになってきた.そこで,治療に対する患者の積極性を重要視した考え方が“アドヒアランス”とされている.Haynesは1979年に,アドヒアランスを「人の行動(薬の服用,食事療法,またはほかのライフスタイルの変更に関する)が医学的または健康上のアドバイスと一致する程度」1,2)と定義し,WHOにおいても,Adherence to Long-term Therapiesという文書において「医療者からの推奨に同意し,服薬や食事療法,生活習慣の見直しを実践すること」と定義3)している.アドヒアランスを高めるためには,患者の治療に対する積極性を促進する過程(プロセス)が重要であると,認識の変化が生じてきたのである.
そこで,アドヒアランスを高めるためには,行動の背景となる知識を得るための“教育的介入”に加え,行動するための技術を得る“行動的介入”や,行動への前向きさを得るための“情緒的介入”など複合的な介入を行うことが重要4)とされるようになった.近年,その情緒的介入の重要性から精神科領域を中心として,「患者と医療者の調和であると同時に,患者の気持ちと行動の調和,さらには患者の未来と現在の方向性の一致を目指すもの」としてコンコーダンスをいう概念5)が浸透しつつある.今後の看護ケアや研究においてコンコーダンスという概念が拡大することが予測されるが,現在の研究データの蓄積も少ないため,本特集においてはアドヒアランスを中心とした研究や実践を紹介したいと思う.
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