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どんな薬?
私たちの体では毎日無数のがん細胞が発生していますが,そのすべてが「がん」になるわけではありません.がんの発生を防いでいるのが免疫監視機構で,T細胞ががん細胞を感知し,ほかの免疫細胞とともにがん細胞を排除しています.しかし,この免疫監視機構は完全ではなく,「がん」はT細胞に認識されるがん抗原をもたない細胞を生み出し,監視から逃避することがわかってきました.また,がん細胞は免疫細胞から逃れるためにがん微小環境をつくり免疫を抑制すること,免疫チェックポイント機構をもっていることがわかってきました.免疫チェックポイント機構にかかわる分子にはCTLA-4, PD-1, PD-L1などがあり,これらを標的にしてがん免疫を再活性化するのが免疫チェックポイント阻害薬です.
ニボルマブはPD-1を標的とした薬で,2014年に承認されました.2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した日本人の本庶佑博士が開発にかかわったことは有名です.本庶博士は免疫細胞であるT細胞の表面に存在するPD-1という新たな物質を発見し,体の中で免疫がはたらくのを抑えるブレーキの役割を果たしていることを突き止めました.このブレーキの解除によって再び免疫がはたらくようにして,人の体が本来もっている免疫でがん細胞を攻撃させるという新しいタイプの治療薬を開発しました.
がん治療薬の創薬には多くの時間と費用が必要であり,ニボルマブの開発にも多額の開発費がかかっています.ニボルマブの承認後薬価を決定する際に,希少疾患の悪性黒色腫のみの適応であったため,100 mg/73万円という高額な薬価が設定されました.しかし,その後肺がんへの適用範囲拡大を行ったことから,利用者数が激増すると予測され,緊急で薬価の見直しが行われました.高齢化のために日本の医療費は2015年度には41兆円を突破している状況で今後財政破綻が予測できること,諸外国価格の2倍以上であることなどから,薬価を50%引き下げるという対応がとられました.この大幅な薬価修正のニュースは,非常に衝撃的でした.
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