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1.はじめに
米国精神医学会の診断基準(DSM-Ⅳ)では,性同一性障害(GID)は自分の反対の生物学的な性(sex)に対する強く持続的な同一感を持ち,自分の生物学的な性に対する持続的な不快感,またはその性の役割についての不適切感を持っている状態であり,臨床的に著しい苦痛または社会的,職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている状態と規定されている。世界保健機関(WHO)の精神および行動の障害の疾病分類(ICD-10)でも同様な診断基準が採用されているが,さらに,ホルモン療法や外科的治療を受けて,自分の身体を自分の好む性と可能な限り一致させようとする願望を持っていることと,上記の強い性別違和感が,統合失調症のような他の精神障害の症状でなく,また染色体異常に関連するものでもないことが規定されている。
1997年5月28日,日本精神神経学会の性同一性に関する委員会は「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」を公表した。1998年10月16日,埼玉医科大学において,このガイドラインに沿って性別適合手術(SRS)が施行された。以後,複数の医療機関においてGIDに対する身体的治療が行われるようになった。さらに,2004年7月,「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」が施行され,一定の条件下でGID当事者の戸籍の性別の変更が認められるようになった。こうした一連の流れによって,公のGID治療が定着していったといえる。しかしながら,わが国におけるGIDの治療はいまだにさまざまの困難性を抱えている。さらに,時とともに概念や治療法も変化しつつある。本特集は,こうした点をわが国の第一人者達の手によって明らかにし,明日のよりよいGID医療の展開を目指して企画された。ここでは,この特集で執筆者によって論述されているGIDを取り巻くいくつかの問題点を,彼らの言葉も借りながら紹介して序論としたい。
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