特集 がん患者に寄り添うコミュニケーション ~事例で学ぶ患者とのかかわりかた~
Ⅱ.コミュニケーションの実際 ~事例編~
家族に相談できない患者 家族に迷惑をかけたくないと,ひとりで闘病を続けていた乳がん患者
我妻 志保
1
1昭和大学病院看護部/がん看護専門看護師・乳がん看護認定看護師
pp.175-178
発行日 2021年2月15日
Published Date 2021/2/15
DOI https://doi.org/10.15106/j_kango26_175
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❁ 事例紹介
Rさん,40代半ば,女性.
患者は専業主婦で会社員の夫,中学生2人の4人暮らし.数年前より右乳房に腫瘤を自覚するも受診せず放置.数ヵ月前より腫瘤が急速に増大し,においを伴う滲出液,出血を認めたが家族に知られないように処置をしていた.はじめは軽度の疲労感を自覚していたが,しだいに動作時の息切れが増強してきていた.そのような症状も家族に気づかれないようしていたが,寝こむことも多くなり家族が異変に気づき受診をすすめた.受診時には強度の貧血(Hb4.0 g/dL台)と胸水貯留を認め,緊急入院となった.
酸素投与と輸血がされ,全身状態の改善と同時に診断のための検査を行った.結果,両側肺転移,多発肝転移,多発骨転移,多発リンパ節転移(腋窩,縦隔,肺門リンパ節)を伴うステージⅣの浸潤性乳管がんと診断された.主治医より「化学療法の効果をみないとはっきり言えないが半年もつかどうかわからない」と夫,母へのみ予後について告知され,細胞障害性抗がん薬と分子標的治療(weeklyPTX+HER)が開始された.ADLは,シャワー浴と処置は介助を要するが,身のまわりのことは自分で行えていた.しかし,右上肢の浮腫を認め,家事をこなすことは困難に思われた.胸水貯留は継続し,在宅酸素療法が必要であった.看護師は,乳房ケアに関して病棟看護師より相談を受け患者の部屋を訪問した.
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