今月の症例
オピオイド依存症の高齢がんサバイバーが鎮痛薬を漸減できた1事例 ~心理社会的支援の重要性~
根岸 恵
1
Megumi NEGISHI
1
1聖隷横浜病院看護相談室/がん看護専門看護師
pp.281-284
発行日 2020年3月1日
Published Date 2020/3/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_kango25_281
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はじめに
近年,がん治療の成績向上により,がんサバイバー数が増加している一方で,高齢がんサバイバーの慢性疼痛やオピオイド依存が問題になっている.がん患者にみられる痛みは「がんによる痛み」,「がん治療による痛み」,そして,「がん・がん治療と直接関連のない痛み」に分類されているが1),がんサバイバーで問題となるのが,がん治療によると痛みと,がんやがん治療と直接関連のない痛みである慢性疼痛である.がんサバイバーの慢性疼痛においては,「がんによる痛み」に用いられる治療方略とは異なる方略で疼痛治療が行われる必要があり,治療の目標は完全な痛みの緩和ではなく,痛みにより損なわれていたQOLを向上させることが基本である2).
オピオイド鎮痛薬は疼痛治療に欠かせない薬物であるが,不適切な使用により乱用・依存につながり,過剰摂取により死にいたることもある.実際,米国では年間約5万人がオピオイド鎮痛薬の過剰摂取で命を落としている3).そのため,わが国の慢性疼痛治療のガイドラインでは,オピオイド鎮痛薬の適応を十分に吟味することや,痛みの持続に心理社会的要因が大きくかかわっていることが推測される患者は,オピオイド鎮痛薬による治療は避けることが推奨されている4).
今回,侵襲の大きい直腸がん手術後の遷延する痛みの治療中にオピオイド依存に陥ったが,緩和ケア外来での疼痛マネジメントと心理社会的ケアにより強オピオイド鎮痛薬の離脱が可能となった高齢がんサバイバーの症例を経験したため報告する.
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