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事例
イリノテカンの投与後6日目ごろから泥状~水様性の下痢が始まり,便に少量の血液が混じっていることもあります.腹痛と食欲不振が起こっています.
この事例のアセスメントと対応
この事例をどうアセスメントする?
今回の事例は,イリノテカン投与後6日目ごろから少量の血液が混入した下痢が出現しており,その原因として感染性によるものと,イリノテカンを被疑薬とする薬剤性によるものが考えられる.今回の事例に該当する急性下痢(持続期間2週間以内)の90%以上は感染症が原因である.非感染性の10%は薬剤,中毒,虚血などが原因であるが薬剤性がもっとも多い1).まず,急性下痢のうち頻度の高い感染性の下痢が疑われる状況がないか見極める.感染性下痢の鑑別として,摂食歴,周囲に同様な症状の人はいないか,旅行歴,ペットの飼育状況などによる感染の機会,発熱の有無を確認する.否定的であればイリノテカン投与を契機として出現している下痢であり,便に血液混入や腹痛がみられることから,薬剤性下痢としてイリノテカンの腸管粘膜障害によって生じる遅発性下痢(イリノテカン投与24時間以降)の可能性を検討する.薬剤性下痢を検討する場合,イリノテカン以外にも原因となる薬剤を使用していないか併せて確認する(表1).経口薬は自宅での内服管理の困難さから,下痢が出現しても下剤や経口抗がん薬の内服を続けていることもあり,下痢の悪化や遷延につながる可能性がある.
この事例にどう対応する?
下痢の増悪は脱水から電解質異常,循環不全につながるなど重篤な状況が起こりうる.脱水の徴候(後出【モニタリングの方法と内容】参照)とともに検査データとして電解質,腎機能,必要に応じて血液ガス検査の値2)を確認し,緊急性の評価を行う.腹痛と食欲不振が生じていることから,経口摂取量も確認する.緊急性の評価を基に適切な補液による脱水と電解質異常の補正を行う.薬剤性下痢の場合,止痢薬を開始し下痢の状態や腹痛と食欲不振が改善するか評価する.また,エネルギーが消耗している状態が予測され,環境調整により安静に過ごせるよう配慮する.
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