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今回は子どものがんと家族を取り上げてみたい.年賀状の季節になると家族の写真つきの賀状が届くことがめずらしくなく,‘一家総出演’という家族中心モードに日本の国中が包まれる.そうした賀状には,名前の横に子どもたちの年齢が書かれてあったりする.年々子どもたちが大きくなり,年齢も1つずつ増えていく.
かつて私は,写真の子どもの数は3人,書かれた名前は4人という年賀状を数年間もらい続けたことがある.その家族にとって,がんで逝った末っ子はずっと家族の一員として意識され,親は年齢を数えながら年賀状にそれを明記しつつ,逝った子に「忘れていないよ」とよびかける.そして親しい人々に「忘れないで,あの子も10歳」と自分たち家族の形を伝えようとする.
小児がんの治療成績は飛躍的に伸び,命は助かるようになっている.一方小児期のがん治療経験が大人になってさまざまに影響し,社会に出ていく際の就職や結婚などの影響が議論されてきている.いわゆる晩期合併症である.晩期合併症としては,大量の抗がん薬や放射線治療を受けたことでのいろいろな身体不調や生殖の問題,2次がんなどが指摘されているが,親子の関係,きょうだい関係,しいては家族全体の関係のきしみ,および家族発達の問題として出てくることは,意外と意識されていないかもしれない.とりわけ思春期以降のいわゆるAYA世代のがんでは,医療者にこの視点は希薄となる可能性がある.
子どもががんになったとき,家族はどのように揺れ動くのか,関係性はどう変化するのか,成長発達を加味した役割移行が滞るとはどういうことなのか,の問題意識をもちながら,ある臨床風景から話を始めたい.なお,本文の事例は加工しフィクションとしてある.
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