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われわれの施設では,Gagnerらが肝腫瘍に対する腹腔鏡下肝切除を世界ではじめて報告1)した1992年から2年後の1994年に2),ガス塞栓の予防のため肝実質切離は小開腹創から直視下に行う腹腔鏡補助下肝切除術を導入した.1996年には肝外側区域を腸管吻合器を用いて一括切除する方法も試みたが,出血のコントロールが困難な症例を経験したため補助下手術を限られた症例で行っていた.その後,世界的に空気塞栓の発生率はほかの腹腔鏡下手術と大きく違わないことが次々と報告され3, 4),2008年に完全腹腔鏡下肝切除術を開始し,2010年には肝右葉後区域および前上背側域の腫瘍に対しては左半腹臥位で行う方法を導入した5~7).2011年より半腹臥位に第7~第9肋間前腋窩線より経横隔膜的に挿入し肝実質切離を行う経腹,経胸の双方向アプローチを導入し,切除範囲も前上区域全体と後区域および尾状葉の右側に適応を拡大している.また,止血のための工夫として2012年からIrrigation Bipolar,2013年8月からPringle manoeuvre,2014年10月からはEndoQuick Sutureを導入8, 9)するなど,より安全に施行可能な完全腹腔鏡下肝切除をめざしてきた.今回はわれわれがサージカルエネルギーデバイスとして頻回に肝切除に応用している,バイポーラ高周波手術器具の使用方法について解説する.
テーマであるエネルギーデバイスとは何を意味する言葉であろうか.現在手術室で用いられている器具は手動以外のエネルギー源は電気であり,電気エネルギーで駆動する器具をすべてエネルギーデバイスと考えることも可能である.しかし,サージカルエネルギーデバイスというのであれば,手術時に生体を切開あるいは凝固するための器具であると考える.電気メスが大代表的な存在であるが,電気メスでなぜ体の組織が切れるのか,紙やプラスチックは切れないのかを説明できる人はほとんどいないのが現状である.教えてもらったことがないし,それが当たり前だと思っている医者がほとんどである.現在この目的に使われている器具はいわゆる電気メス(高周波切開凝固装置)のほかに,超音波凝固切開装置そしてレーザーメス,最近ではウォータージェットメスがあげられる.これらのサージカルエネルギーデバイスはどれも単純な原理ではなく,似ているようでかなり異なっており,医学の知識だけでは理解できない点も多いが,うまくいかないときに押し付けたり強く握ったり,「装置のパワーを上げろ」と怒鳴ったりすることのないように,少しだけ原理と理屈を交えて,われわれが肝切除に用いているバイポーラ高周波凝固装置の使用方法に関して解説する.
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