Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
は じ め に
近年,股関節鏡視下手術は股関節インピンジメント症候群(FAIS)に対する治療法として広く普及している.股関節鏡視下手術は術前診断,手術適応および術中の処置,関節包の適切な管理が長期成績に大きく影響することが指摘されている1).
股関節包は腸骨大腿靱帯,恥骨大腿靱帯,坐骨大腿靱帯などから構成され,特に腸骨大腿靱帯は股関節伸展と外旋を制動する主な役割を担い,小殿筋,腸腰筋深層腱膜と結合して,股関節の安定性を提供する静的および動的支持機構を形成している2).股関節鏡視下手術において十分な術野を確保するためと関節鏡器具の操作性の観点から,関節包切開は必要とされるが,過度な切開や不完全な修復は術後の股関節不安定性を惹起しうる要因となりうる.
Anterolateral portal(ALP)とmid-anterior portal(MAP)を結ぶ従来のポータル間関節包切開は,関節唇修復やcam切除において操作性に優れる一方で,腸骨大腿靱帯を切離することが避けられず,特に境界型寛骨臼形成不全(borderline developmental dysplasia of the hip:BDDH)のような潜在的に不安定な病態では,術後成績に負の影響を及ぼす可能性がある.こうした背景のもと,当院では腸骨大腿靱帯を温存し,最小限の関節包切開で術視野を確保しつつ,関節唇修復・cam切除を可能とする新たなアプローチとして,スキップ関節包切開を用いた股関節鏡視下手術を採用している3).具体的には,縦切開(MAP)と横切開(ALP後方)を組み合わせ,関節唇修復やcam切除を効率的に行いながら,最後に横切開した関節包をshoelace techniqueを用いて関節包縫合を行う手法である.
本研究では,腸骨大腿靱帯を温存可能なスキップ関節包切開と,従来のポータル間切開を用いた股関節鏡視下手術を比較し,FAISおよびBDDHにおける臨床成績および合併症の観点から有用性を検討した.なお,本研究は北水会記念病院の倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:2023-091,2023-093).

© Nankodo Co., Ltd., 2025