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は じ め に
人工関節周囲感染(periprothetic joint infection:PJI)は,迅速な診断と治療が求められる.PJIは,バイオフィルムの形成が継続的に起こるため,抗菌薬治療に抵抗し1),バイオフィルム内の細菌は増殖可能であるが培養不能な状態を含む代謝の遅い形態へと変化する2).したがって,原因となる微生物を迅速に特定し,抗菌薬に対する感受性を特定することが治療を成功させるうえできわめて重要となる.培養法は,現在も整形外科感染症診断における必須検査であるが,結果が出るまでに時間を要し,抗菌薬を投与されている場合に検出が困難である.超音波処理により培養法の感度は向上しているが3~6),培養結果が陰性の患者は依然として多い.このような培養検査で検出がむずかしい感染症に対し,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は,特定の病原体または遺伝子を迅速に同定し,培養困難な細菌の同定が可能である7~11).
これまでPCRはデオキシリボ核酸(DNA)抽出など煩雑な工程と特殊な機器,特定の専門知識が必要であった.このような状況下で,診断を迅速化した全自動遺伝子検査が登場し,本邦に導入されている.筆者らの施設における全自動多項目遺伝子検査の導入は,新型コロナウイルス感染症パンデミック時の呼吸器感染症の診断である.新型コロナウイルス感染症の流行のため,関西医科大学総合医療センターにゲノム解析センターを創設し,次世代シーケンサー(NGS)は主に新型コロナウイルス感染症のウイルス種の判別に使用し12),院内感染や呼吸器感染症との鑑別に全自動マルチプレックスPCRを使用した.現在,PCR検査は日本全国の病院において使用できるようになっており,昨年は整形外科領域ではじめて市販化された敗血症性関節炎における原因微生物の迅速な同定が行えるThe BIOFIRE joint infection panel(JIパネル)[BioFire:bioMérieux社]が認可された.JIパネルは,31種の細菌や真菌を同時に検出し,8種類の抗菌薬耐性遺伝子を1時間程度で検出できる全自動マルチプレックスPCRである13~16).本研究の目的はJIパネルによる股関節疾患感染患者での関節液中の病原体の特定における診断精度を培養検査と比較し評価することである.

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