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は じ め に
人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は,診断と治療に難渋し,治療期間も課題である.要因にはバイオフィルム内細菌のviable but non-culturable(VBNC)と関連し,再発が繰り返される慢性感染は,主として抗菌薬の殺菌作用に耐性のある休眠状態の持続生残菌(persister)である薬剤感受性病原菌が起因する1).つまり,これらの感染根治は徹底した郭清と治療抗菌薬の選択,残存細菌を根絶する治療が必要である.
PJIを含むインプラント周囲感染は,感染の再燃など治療が長期化した場合に,患者への負担だけでなく,多大な医療費が費やされることも問題である.PJI治療を困難とする最初の問題は,腐骨やインプラント上に形成されるバイオフィルムが免疫防御や抗菌薬に対する抵抗力を備えていることである.そのため,バイオフィルム内の細菌を排除するために必要な抗菌薬濃度は,通常治療の約1,000倍を必要とする2).しかし,抗菌薬の経静脈的投与による治療は,バイオフィルム内の細菌を排除する必要な抗菌薬濃度を維持できないので,感染根治を目標とする場合,病巣局所への抗菌薬投与や外科的介入が治療の前提条件となる.二つ目の問題は,郭清術後に骨欠損が生じ,その再建が困難な点である.再建に同種骨移植片のみを使用した場合,感染した状態における移植片は細菌が定着しやすい状態である.三つ目の問題は,股関節のPJIにおいて関節機能の廃絶と筋力低下による問題は直接生活に影響することである.これらの問題を同時に解決できる治療手法として,われわれは抗菌薬を骨に含有させて治療に用いる方法[antibiotic-impregnated bone grafts(AIBGs)法]3~7)に着目した.
AIBGsは,抗菌薬の担体として効率的に作用させ,抗菌薬の放出をminimum biofilm eradication concentration(MBEC)2)以上で長期間持続させることができる.さらに骨移植片に抗菌薬を負荷することで細菌の付着を防ぐだけでなく,局所的に高濃度の抗生物質を供給し,定着した病原体を排除できる.AIBGsは,骨接合材料による同時内部固定と感染した人工関節の単一ステージ交換を可能とし,入院期間を短縮し,感染治癒した患者のリハビリテーションが早まることが期待される.
骨に抗菌薬を含浸させるというコンセプト自体は新しいものでなく,de Groodは1947年に骨欠損を充塡する際に海綿骨にペニシリンを混合することを報告し8),基礎的研究によると骨移植片に抗菌薬を混ぜた場合,抗菌薬の保存能力はpolymethyl methacrylate(PMMA)やほかの担体を大きく上回る.特に精製された海綿骨に抗生物質を含浸させると,バンコマイシンで最大20,000mg/l,トブラマイシンで最大13,000mg/lの局所濃度が得られる4,5).このような含浸により,担持された抗菌薬全量が抗菌活性に利用可能な抗生物質-骨複合体を形成し,MBECを超えて数週間維持され細菌汚染部位の再構築と同時に強力な局所担体として機能できる.
筆者はこれまでantibiotic-loaded acrylic cement(ALAC)以外にAIBGsをインプラント周囲感染例における慢性骨髄炎の治療に使用して感染根治にいたった経験9)と次世代シーケンサー(next generation sequencing:NGS)および定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた分析7)を行った後,2021年より二期的人工股関節再置換術の初回手術にAIBGsをALACの代替として用いた.現在,PJIおよび感染が完全に除外できない人工股関節再置換術はAIBGsとALACの併用による感染根治術を行っている.本稿では,AIBGsとALACを初回手術に用いた股関節PJIにおける二期的再置換術例について検討し,代表症例を提示する.

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