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は じ め に
腱滑膜巨細胞腫は手に発生する軟部腫瘤のなかではガングリオンに次いで多い.腱滑膜巨細胞腫の手術に際して,指神経と指動静脈が皮切の直下に存在したり,腫瘍が組織間隙に入り込むように発育していたり,あるいは,靱帯や腱などに浸潤していたりなど,その局所浸潤型の発育様式に戸惑うことがある.腱滑膜巨細胞腫はより慎重な対応が必要な良性腫瘍の一つであり,手術においては,正確な診断,適切な準備,慎重な手術手技の三つをしっかり行うことが重要である.
腱滑膜巨細胞腫が腫瘍性疾患なのか炎症性疾患なのか議論があるが,近年,腱滑膜巨細胞腫の63~77%でCSF-1遺伝子の発現上昇が認められ,腱滑膜巨細胞腫はCSF-1遺伝子を異常発現している滑膜細胞由来の腫瘍性疾患とする説が有力である1).CSF-1は多くの組織球を引き寄せるため,腱滑膜巨細胞腫内には組織球の集簇が認められる.腱鞘滑膜に発生することが多く,関節滑膜の発生は8~19%と少ない2,3).また,手指には単一の腫瘍塊を形成する限局型がほとんどであり,びまん型4)はまれである.
腱滑膜巨細胞腫の発育様式は浸潤性である.つまり,被膜を有するものの隣接組織に容易に癒着したり浸潤したり,被膜がありながら被膜外に発育することがある.手指例でも数%は被膜をもたず発育する5).また,浸潤性の発育様式のために,手術の際に腫瘍の取り残しが生じやすく再発率は2~27%と高率である6~9).報告されている再発因子は,母指指節間(IP)関節・その他の手指の遠位指節間(DIP)関節部発生,隣接関節の変形性関節症変化,腱鞘や関節内への浸潤など取り残しを生じやすい解剖学的因子であり,再発に影響を与える腫瘍の内的因子については確定したものはない10).自験例においても,MIB-1抗体を用いた免疫組織化学的検索では再発と細胞増殖能との関連は見出せなかった7,11).現在のところ手術が唯一の標準的治療である.なお,CSF-1阻害薬の有効性が報告されているが,わが国では保険適用となっていない.
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