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近年の国内外の精力的な研究により,長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)の多様な生理機能と機能発現様式が明らかになりつつあり,発生過程や疾患に関与するlncRNAも多数見いだされている.分子機能について最もよく研究されているlncRNAとしてXISTが挙げられる.XISTは哺乳類の雌が発生初期において2本あるX染色体のうちの一方に不活性を誘導することで,X染色体関連遺伝子の遺伝子量補償(雄細胞に比べて雌細胞ではX染色体が2本あるため,そのままではX染色体由来の遺伝子発現が雄細胞の2倍となる不都合を補う生理機構)を担うlncRNAである.XISTによるX染色体不活性化が破たんした雌のマウスは胎生致死になることは以前から知られていたが,近年,Xistを欠損した造血幹細胞ではX染色体の再活性化に引き続く遺伝子発現の変化により,正常に分化できずがんを引き起こすことが報告された.さらに興味深いことに,XISTによる染色体不活性化機構を疾患の治療に応用しようとする試みも進められている.ダウン症は第21番染色体のトリソミーに起因する疾患であるが,ダウン症患者由来のiPS細胞の第21番染色体のDYRK1A遺伝子座にXISTを挿入した結果,第21番染色体が安定的なヘテロクロマチンを形成することが確認された.このように発生や疾患に関与するlncRNAに着目し研究を進めることで,タンパク質に着目する研究のみでは解明できなかった生命現象の解明,疾患のメカニズムの理解,さらには新たな治療戦略の開発へつながることが期待される.本稿では,がんや神経変性疾患もしくは発生過程において重要な役割を果たすlncRNAをリストアップした.ここでは分子機能が比較的明らかであるlncRNAを挙げているが,疾患との関与のみが報告されているlncRNAも多数存在しており,それらの一部についてはデータベース化されている.
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