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はじめに
慢性疾患患者が病いとともに生きることに折り合いをつけていく過程は,Straussのwork1) をはじめさまざまな学問領域において長きにわたって議論されてきたテーマである.
今回取り上げる関節リウマチ(以下リウマチ)は,関節の炎症と痛み,それらに伴う日常 生活動作の低下,全身の倦怠感などが特徴である.リウマチ患者らは,これらの身体的問 題に加えて,「老人特有の軽い神経痛」,「怠け者病(朝の不調)」などの誤ったイメージから 付与されるスティグマ,さらには遺伝,治療費といった心理的,社会的な問題をも抱えて いる.リウマチ患者の生活史に着目した医療社会学者のBuryは,こうした慢性疾患の発 症は「生活史の断絶」2)をもたらす破壊的な経験であると捉え,以下の3つの側面を示した.
(1) 当たり前の行動ができなくなる.誰かの手を借りなければならない.またその決定が 必要となる.
(2) これまで行ってきた仕事・付き合いができなくなる.それらをもとに描いていた将来 的展望を維持できない.それ以前の社会のなかでの自己とその人生の位置づけについ ての認識が通用しない.その人の生活史と自己概念の根本的な再考が含まれる.
(3)変更された状況に直面した際,生活史の再編のために周りの資源を活用しようとする. 発症によりこれまで自明であった患者の生活の枠組みは機能しなくなり,「生活史の断絶」 の苦しみは生活史が再編されるまで続く.生活史の再編には,病いの経験を組み込んだ新 しい「わたし」の物語を語り直す必要があり,語ることで生活史を再編することができる.
本稿では,Buryの理論を参考に女性リウマチ患者が自己の生活史を再編し,アイデン ティティを取り戻したプロセスを彼女らへのインタビューをもとに記述していく.
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