婦人ジャーナル
父と子の断絶
山主 敏子
pp.57
発行日 1971年10月1日
Published Date 1971/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204233
- 有料閲覧
- 文献概要
仕事が多忙なために家で子どもと接する時間の少ない一般サラリーマン家庭の父親というものが,子どもから浮き上がった存在になりつつあるということが,しばしば問題として取り上げられている。「主婦と生活」10月号の特集"父と子の新しいあり方を考える"もそのひとつである。一流銀行のエリート課長である父親が,土曜日の夜めずらしく早く帰宅して居間のテレビの前のソファに腰をおろしたとき,子どもたちがどやどや入ってきて前に立ちふさがり,"パパどけよ,そこはぼくたちの席なんだから"といった。兄の乱暴な口調をまねて,下の子たちも"そうだそうだ"とはやしたてた。彼はあっけにとられた。"これが実のわが子だろうか……"妻はと見れば平然とそばで編物をしている。べつに子どもをたしなめるでもない。彼は黙って立って隣室に去った。ふすま越しに妻と子どもたちの楽しげな笑い声がきこえてきた……。
以上は実話だというが,父と子の心の交流が,この家庭には全く欠けている。だがこれは父親の責任だろうか。わたくしはこのように父と子を離間させた責任の大半は母親にあると思う。よく"うちの子は父親を尊敬しなくて困ります"という母親がいる。尊敬させなくしたのは実は母親なのだ。
Copyright © 1971, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.