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はじめに
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は高齢化社会に伴い急速に増加している疾患であり,厚生労働省の患者調査によれば患者数はおおむね20万人前後と報告されており,日本人のCOPD有病率は0.2%と報告されている.COPDは進行する労作時呼吸困難や慢性の咳・痰を認めるが,重症化していくと呼吸困難が契機となり身体機能失調(deconditioning)を起こし,運動耐容能の低下を招く.ソーシャルメディアを利用した研究では,患者が困っている症状の1位は咳嗽,2位は喀痰,3位は息切れであり,介護者からみた患者の困っている症状は1位が息切れであり,患者と介護者との間で不一致が認められている1). 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版2)でも管理目標として「現状の改善(① 症状およびQOLの改善,② 運動耐容能と身体活動性の向上および維持)」と「将来リスクの低減(①増悪の予防,②疾患進行の抑制および健康寿命の延長)」があげられている. 一方,東洋医学の1つである鍼治療は呼吸器疾患にも応用されており,近年では肺がん患者の訴える呼吸困難に対して鍼治療を行うと,呼吸困難の改善に加えて不安なども改善することが報告されている3).また,COPDに対する鍼治療については1986年にJobstらが初めてLancetにランダム化比較試験(RCT)を報告しており,この当時はCOPDの概念も確立されていなかったため,気管支喘息やその他の類縁疾患も対象患者に含まれていた.結果としては,プラセボ群と比較して鍼治療群ではVisual Analogue Scale(VAS)で評価した呼吸困難や6 Minute Walk Test(6MWT)におけるmodified Borg Scale(mBS)の改善が報告された4).さらにJobstは呼吸器疾患を対象とした鍼治療の安全性について報告しており,RCTが実施された16論文から2,937名の患者を対象に検討した結果,安全性においては軽度の内出血や鍼治療直後の眩暈や倦怠感は認めたものの,生命を脅かす有害事象の発生はなかったと報告している5).その後,2000年代に入りCOPDに関する鍼治療の臨床研究が進み,臨床試験としては現在systematic review(SR)/meta analysis(MA)なども報告されており,呼吸困難に対しては効果が示されている6).筆者らもCOPDの労作時呼吸困難に対して鍼治療を行いその臨床効果を検討してきた7).その結果,労作時呼吸困難やQOLなどの改善が認められ,さらに在宅酸素療法における吸入酸素量の減量が可能となった症例も認められた8).今回はこれらの結果を踏まえてCOPDに対する鍼治療について解説を行う.
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