Japanese
English
- 販売していません
- Abstract 文献概要
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
2022年度における日本の高齢化率は28.9%であり,今後も上昇することが予想されている(内閣府,2022).高齢者介護を担う社会資源のひとつに高齢者介護施設が挙げられるが,介護事業所のうち64.4%が介護職員の不足を感じている(介護労働安定センター,2022).このような状況において,厚生労働省および経済産業省は,利用者の自立支援や介護者の負担軽減のためにAI(artificial intelligence;人工知能)を含めた介護ロボット注1)導入を推進している.具体的には,2012年に「ロボット技術の介護利用における重点分野」注2)を策定し,ロボットおよび介護技術の開発を支援している(厚生労働省,2017).また,岸田内閣が進める「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」のなかでも「新時代の競争力の源泉」として重点投資先にDXやAI実装をはじめとする科学技術を挙げている(内閣官房,2022).しかし,このような機運とは裏腹に,介護ロボットの導入に関しては,「いずれも導入していない」が81%と大部分を占めている(介護労働安定センター,2022).
現状の理由として,介護労働安定センターが介護事業所に対して介護ロボット導入や利用への課題(複数回答可能)を調査したところ,「導入コスト」(57%)がいちばん多く挙げられたが,「ケアに介護ロボットを活用することに違和感を覚える」と回答した事業所が23%を占めている(介護労働安定センター,2022).この件について,2008年,介護職の業務負担を減らすことを目的に,グループホームに設置するカメラの開発が,文部科学省の研究費を用いて進められていた.しかし,全国認知症グループホーム協会が「利用者からすれば監視以外のなにものでもない」と実用化に反対する声明を出したことを受けて,商品化が見送られた(朝日新聞,2008).また,ある介護施設では介護ロボットを積極的に導入しようとしたが,施設の方針と合わず退職した職員も少なからずいたとの話を聞くこともあった.
AI技術や介護ロボット(以下,介護ロボット等)を高齢者施設に導入する際には,上述したカメラによるプライバシー権侵害などの倫理的・法的課題に加えて,「被介護者,介護者および社会全体が介護ロボット等の導入を受容できるのか」という社会的課題が存在する.介護ロボット等を高齢者施設にて,円滑に導入・活用するために,これらの先端技術に対する国内外の行政および組織が,どのような問題意識をもっているのかをガイドラインを通じて把握したうえで,倫理的・法的・社会的課題について具体的に検討する必要があると考える.
Copyright © 2023, Japan Academy of Gerontological Nursing All rights reserved.