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Ⅰ.はじめに
筆者は看護学を学び始めて40年になる.当時,看護基礎教育に「老年看護学」の科目はなかったが,恩師や仲間に出会い,当時から老年看護に関心をもつようになった.この間に,わが国の高齢化率は29%を超え,男女の平均寿命は80歳を上回り,高齢者とその家族を取り巻く状況は大きく変わった.核家族化が進み,65歳以上の高齢者のいる世帯全体に占める三世代世帯の割合は10%未満となり,ひとり暮らしや老夫婦のみの世帯が多くを占める.介護に対する意識の変化も加わり,「配偶者」や「子ども」が介護者になる場合が「子の配偶者」による介護を上回るようになった.さらに,病院に集中していた高齢者の死亡場所が,自宅や施設へと広がりをみせ,看取りの場が多様化している.
一方,社会の高齢化に伴って法・制度の整備も進んだ.老人保健法の成立以降,1989年から10年にわたるゴールドプランによってサービス資源の整備が進み,2000年の介護保険へとつながる.2006年には高齢者虐待防止法が施行され,2012年の認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)の策定に続き,2016年には診療報酬に認知症ケア加算が新設された.「介護の社会化」といわれる介護保険以降,高齢者本人の人権や社会参加を重視する施策の整備が進んでいる.筆者の実体験としても,40年前には布オムツが主流で,多くの老人ホームに「回廊式」が採用され,ショートステイの申請に「公的理由」と「私的理由」の区分けがあった.これらは過去のものとなり,超高齢社会は集団処遇から個別性に基づくケアへ,パターナリズムから本人中心へと,高齢者の幸せが高まる成熟の方向に推移していると思われる.
これまで筆者が行った研究を改めてながめると,それは巡り巡って高齢者の幸せにつながることを願って取り組んだように思う.これらの研究を,「見過ごされがちな認知症高齢者の健康問題の探究」と「認知症高齢者の安らかな晩年への探究」の2方向から振り返り,成熟社会における老年看護の課題を検討する.
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