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1.はじめに
2010年11月に刊行されたイギリスの雑誌『Economist』は日本を特集した号であった.その表紙には,大きな日の丸を背中に抱えその下でつぶれそうになっている子どもの姿が象徴的に描かれ,「Japan's burden(日本の負担)」という見出しがつけられていた.
そしてこの号では「日本症候群(Japan Syndrome)」というキーワードが示され,日本が抱える問題の本質はほかでもなく「高齢化」と「人口減少」にあり,それをいかに克服していくかが日本にとっての最大の課題であるということが論じられていた.加えて高齢化と人口減少は,世界各国が日本を追いかけるように直面していく問題であるため,日本がそれにどう対応していくかは日本だけの問題にとどまらず,世界が注目しているという趣旨の議論が展開されていた.
さて,この『Economist』誌が論じるように,高齢化や人口減少がさまざまな“たいへんな問題”を抱えていることは確かなことである.しかし私自身は,それは事柄の一面であり,高齢化や人口減少は本稿で述べていくように,むしろさまざまなポジティブな側面や可能性をもっていると考えている.
思えば高齢社会についての議論が盛んになって久しいが,その多くは“労働力人口が減って経済の活力が失われる”“年金や老人医療費で財政がパンクする”といった悲観的なものとなっている.けれども虚心にかえって考えた場合,「多くの人が長生きできるようになった社会」がそう悲観的なものであるはずがない.さらに言えば,高齢化に伴うさまざまな「コスト」や「負担増」ということが論じられるが,ごく素朴に,それはいわば一種の“長生き料”を払っている,と考えてよいのではないか.昔よりずっと長生きができるようになったのだから,それに多少お金を払っていると思えば,そう悲観的になる話ではそもそもないのではなかろうか.
それはさておき,いま必要なのは,そもそも超高齢社会とはどういう意味をもつ社会なのか,そもそも人間にとって老いやライフサイクルとはなにか,といった基本的な問い直しである.本稿ではこうした話題について幅広い視点から考えてみたい.
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